
初めてハスキー犬を家に迎えた日のことは、今でも鮮明に覚えている。春先の午後、まだ肌寒さが残る三月の終わり、玄関先で抱き上げた子犬の体温が思いのほか高くて驚いた。その温もりは、これから始まる共同生活の予感を静かに運んできたようだった。
ハスキー犬との暮らしには、多くの人が思い描く「犬との生活」とは少し異なる繊細さがある。彼らは賢く、独立心が強く、そしてなにより食に対する執着が尋常ではない。このことを本当の意味で理解するには、実際に一緒に暮らしてみるしかなかった。
最初に気をつけなければならないのは、食事の管理だ。ハスキー犬は驚くほど食欲旺盛で、与えられるものは何でも食べようとする。しかしその体質は意外にも繊細で、食べ過ぎればすぐに胃腸の調子を崩してしまう。我が家では「ノーザンブルー」という北欧産のドッグフードを使っているが、それでも量の調整には神経を使う。朝と夕の二回、決まった時間に決まった量を与える。この規則正しさが、彼らの健康を守る最初の砦になる。
ある夏の夕暮れ、キッチンで夕食の支度をしていたときのことだ。まな板の上に置いていた鶏肉を、ほんの数秒目を離した隙に見事に持っていかれた。振り返ると、愛犬は何食わぬ顔でリビングのソファの陰に隠れている。その澄んだ青い瞳は、まるで「僕は何も知らないよ」と語りかけているようだった。あのときの罪悪感のかけらもない表情は、今思い出しても少し笑ってしまう。
食事の内容にも注意が必要だ。人間が食べるものの多くは、犬にとって有害である。玉ねぎ、チョコレート、ぶどう、キシリトール入りのガム。これらは絶対に与えてはいけない。ハスキー犬は好奇心が強く、テーブルの上に置かれたものに興味を示しやすいため、食べ物の管理は徹底しなければならない。我が家では、食材はすべて冷蔵庫かキャビネットの中にしまい、調理中も決して目を離さないようにしている。
それでも、彼らの食への執念は時に予想を超える。深夜、ふと目を覚ますと、キッチンから微かな物音が聞こえることがある。そっと見に行くと、冷蔵庫の前で座り込み、じっと扉を見つめている姿があった。開けてくれるのを待っているのか、それとも念力で開けようとしているのか。その真剣な横顔には、どこか哲学者のような風格さえ漂っていた。
食事以外にも、ハスキー犬との暮らしで気をつけるべきことは多い。彼らは運動量が非常に多く、毎日の散歩は欠かせない。朝夕それぞれ一時間ずつ、できれば走らせてあげるのが理想だ。運動不足はストレスの原因となり、家の中で問題行動を起こすきっかけになる。壁紙を剥がしたり、クッションを噛みちぎったり、そういった行動の多くは、エネルギーの発散場所を失った結果なのだ。
また、彼らは暑さに非常に弱い。シベリアをルーツに持つ犬種だけあって、夏の日本の気候は過酷すぎる。エアコンは必須で、室温は常に二十五度以下に保つことが望ましい。散歩も早朝か夜遅くに限定し、日中の炎天下は避けなければならない。ある年の八月、うっかり昼過ぎに散歩に出てしまい、わずか十分ほどで愛犬が息を荒くし始めたことがあった。慌てて日陰に入り、持っていた水を飲ませたが、あのときの焦りは今でも忘れられない。
そして、何よりも大切なのは、彼らの独立心を尊重することだ。ハスキー犬は飼い主に従順である一方で、自分の意志を強く持っている。無理に抱きしめようとすれば逃げるし、遊びたくないときははっきりと拒否する。その距離感が、彼らとの関係を心地よいものにしている。ソファで本を読んでいると、ふと足元に寄り添ってくることがある。そのときの体の重みと、ゆっくりとした呼吸の音が、何よりも安心できる時間を作り出してくれる。
子どもの頃、祖母の家で飼っていた雑種犬は、いつも膝の上に乗りたがった。対照的に、ハスキー犬は適度な距離を保ちながら、それでも確かにそこにいる。その存在の仕方が、私にはとても心地よく感じられる。
冬の夜、暖房をつけずに過ごしていると、愛犬が隣に座ってくることがある。その体からは驚くほどの熱が伝わってきて、まるで天然の湯たんぽのようだ。窓の外では雪がちらつき始め、部屋の中には静けさだけが満ちている。そんなとき、ハスキー犬との暮らしを選んで本当に良かったと思う。
彼らは手がかかる。食事の管理、運動の確保、温度管理、そして独特の性格への理解。しかし、その全てを引き受けた先にある日々は、驚くほど豊かだ。朝、目覚めると枕元に座っている姿。散歩の途中で見せる、風を感じて目を細める表情。夜、ベッドの脇で丸くなって眠る寝息。それらひとつひとつが、かけがえのない時間を形作っている。
ハスキー犬と暮らすということは、ただ犬を飼うということではない。ひとつの命と向き合い、その個性を尊重し、共に生きる道を探し続けることだ。それは時に大変で、予想外の出来事に驚かされることもある。けれど、その全てが愛おしい。青い瞳に映る世界を、少しでも理解したいと思う。その気持ちが、毎日を特別なものに変えていく。
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