窓から差し込む朝日が、リビングの床を優しく照らす季節となった。私は食器を洗いながら、庭で戯れる夫と娘、そして私たちの家族の大切な一員であるハスキー犬のルナを眺めている。ルナが我が家にやってきてから、もう5年が経つ。
あの日、保護犬センターで出会ったルナの澄んだ青い瞳は、今でも鮮明に覚えている。夫が単身赴任から戻ってきたばかりで、3歳だった娘は寂しい思いをしていた時期だった。「家族の形を変えてみない?」という夫の提案で訪れた保護犬センター。そこで私たちは、人懐っこい表情で尻尾を振るルナと出会った。
ハスキー犬特有の毛並みと凛とした佇まいを持つルナは、以前の飼い主の事情で手放されたという。人間不信になっていてもおかしくない境遇だったのに、ルナは純粋な愛情で私たちを見つめていた。娘がケージに近づくと、ルナは優しく鼻先を寄せ、まるで長年の友人のように接してくれた。その瞬間、私たちは直感的にルナを家族に迎えることを決めた。
最初の頃は、新しい環境に慣れるまで戸惑うこともあった。ハスキー犬特有の活発な性格で、庭を駆け回っては花壇を荒らしてしまうことも。でも、そんなルナの姿に娘は大喜び。毎日のように庭で追いかけっこをして遊び、時には疲れ果てて芝生の上で眠ってしまうこともあった。
ルナは驚くほど賢く、短期間で基本的なしつけを習得した。「お座り」「お手」はもちろん、「お留守番」も完璧にこなせるようになった。特に印象的だったのは、娘が幼稚園から帰ってくる時間になると、必ず玄関前で待っている習慣がついたことだ。まるで時計を読めるかのように、決まった時間になると耳を立て、尻尾を振りながら娘の帰りを待つ。
季節が変わり、夏の暑い日々がやってきた時も、ルナは私たちの生活にさらなる彩りを添えてくれた。厚い被毛を持つハスキー犬にとって、日本の夏は過酷だ。そこで夫が考えたのは、庭にビニールプールを設置すること。最初は戸惑っていたルナも、娘と一緒に水遊びをするうちに、すっかり夏の楽しみを覚えた。
夕暮れ時になると、近所の公園まで家族で散歩に出かける。ルナは常に私たちの横をゆっくりと歩き、時折立ち止まっては周囲の様子を確認する。その姿は、まるで家族の護衛をしているかのよう。公園でほかの犬と出会っても、ルナは穏やかな態度を崩さない。むしろ、小さな犬たちと遊ぶ時は、自分の体格を考慮してか、特に優しく接している。
冬になると、ルナの本領が発揮される。雪が積もった日、私たちが心配そうに外を眺めていると、ルナは嬉しそうに庭に飛び出していった。生まれ持った北国の血が騒ぐのか、雪の上を走り回る姿は生き生きとしていて、まるで別の犬のよう。その姿に触発されて、家族全員で雪合戦を始めたこともあった。
ある日、娘が熱を出して学校を休んだ時のこと。ルナは一日中、娘のベッドの横から離れようとしなかった。時々、心配そうに娘の顔を覗き込んでは、私に何かを訴えかけるような目で見つめてきた。夜になっても、娘の熱が下がるまで付き添い続けた姿に、私は深い愛情を感じずにはいられなかった。
最近では、娘も小学生になり、家族の生活リズムも少しずつ変化してきている。でも、ルナは相変わらず変わることなく、私たちの日常に寄り添ってくれている。朝は娘の目覚まし代わりに優しく起こし、夕方は宿題をする娘の足元で静かに眠る。夫が仕事で遅くなる日は、私の傍らでじっと待っていてくれる。
時には、ハスキー犬特有の「歌声」を聞かせてくれることもある。特に満月の夜は、庭から月を見上げながら、不思議な声で鳴く。最初は近所迷惑を心配したものだが、今では家族のちょっとした娯楽になっている。娘はルナの歌声に合わせて踊ったり、一緒に歌ったりして楽しんでいる。
ルナが教えてくれたのは、家族の絆は血縁だけではないということ。毎日の何気ない瞬間の中で、私たちは確かな愛情で結ばれている。朝の散歩で出会う近所の人々との会話も、ルナのおかげで広がった。「あら、今日もルナちゃんはお利口さんね」と声をかけられるたびに、私は誇らしい気持ちになる。
今日も庭では、いつもの光景が広がっている。夫が投げたボールを、ルナと娘が競争するように追いかけている。時々、ルナは意図的に娘に譲るような素振りを見せる。その賢さと思いやりに、私は何度も心を打たれる。洗い物を終えた私がリビングに戻ると、二人とルナは満足そうな顔で休んでいた。
これからも、季節は巡り、私たちの生活は続いていく。その中で、ルナはきっと変わらぬ愛情で私たちを見守ってくれるだろう。たとえ言葉は通じなくても、その純粋な心と穏やかな存在が、私たちの家族をより強く、より温かいものにしてくれている。
窓の外では、夕暮れの空が少しずつ色を変えていく。ルナは私の足元で静かに寝息を立てている。この穏やかな時間の中で、私は改めて感謝の気持ちを噛みしめる。ハスキー犬のルナは、私たちの家族に欠かせない存在となった。そして、これからも共に歩んでいく大切な仲間なのだ。
コメント