
梅雨の晴れ間というのは、どうしてこんなに気持ちがいいのだろう。6月下旬の午後2時ごろ、空気はまだ湿っているのに、日差しだけがやけに夏めいていた。庭の芝草が光を弾いて、青くも黄色くも見える。そんな日に、友人たちがハスキー犬を連れてうちへやってきた。
玄関を開けた瞬間、ふわりと獣の温かい匂いがした。犬の体温ってこんなに高かったっけ、とぼんやり思う間もなく、グレーと白の大きな塊が飛びかかってきた。名前はソルト。3歳のオスのシベリアンハスキーで、
左右の目の色が違う「オッドアイ」
が印象的な子だ。片方はブルー、もう片方はブラウン。まるで空と土を同時に見ているような瞳で、こちらをじっと見上げてくる。
友人の麻里と健太が、リードを手に苦笑いしながら入ってきた。「ごめん、テンション上がりすぎて」と麻里が言う。健太はソルトのリードを短く持ちながら、アイスコーヒーを私に差し出した。その手がほんの少しぶれて、グラスの結露がぽたりと床に落ちた。小さなことだけど、なんだかその一瞬がとても今日らしかった。
庭に出ると、ソルトはすぐに走り出した。
好奇心旺盛で非常に活動的
なハスキーの本能が、そのまま体に乗り移ったみたいに。芝を蹴る音、草の青い匂い、そして遠くで鳴いているヒヨドリの声。全部が一緒くたになって、午後の庭に広がっていく。
ハスキーを迎えた家庭の約8割が「家族や他のペットともすぐに打ち解けた」と回答している
というデータがあるらしいけれど、ソルトを見ていると確かにそれがわかる気がした。初めて会う私にも、臆することなく体を預けてくる。大きな頭を膝に乗せて、目を細める。重い。でも、温かい。
一緒に遊ぶというのは、こういうことだと思う。特別なことは何もしていない。ボールを投げて、追いかけて、戻ってきたソルトに「えらい」と言う。それだけのことが、なぜかずっと続けていられる。麻里は芝の上に寝転がって、ソルトのお腹に顔を埋めていた。健太はスマホを構えながら、何度もシャッターを押していた。「また変な顔で撮れた」と笑いながら画面を見せてくれる。確かに、ソルトは盛大によそ見をしていた。
子どもの頃、実家で雑種の犬を飼っていた。名前はクロ。散歩に行くたびに近所の犬に吠えかかって、私は毎回リードを引っ張られて転びそうになっていた。あのころは犬と一緒に遊ぶというより、犬に振り回されていた。でも今日、ソルトと庭を走り回りながら、あの感覚が少し戻ってきた気がした。犬といると、時間の流れ方が変わる。
SNSやテレビでも「ハスキーに似た犬」が話題となっている。その理由は、狼に近い精悍なルックスや、堂々とした佇まい、そして何よりも人懐っこさや忠誠心といったギャップが、多くの飼い主の心を掴むから
だという。実際にそばにいると、そのギャップはもっとリアルに感じる。見た目はワイルドなのに、麻里の膝の上でうとうとし始めるソルトは、どこか大きな赤ちゃんみたいだった。
夕方になると、空気が少しだけ落ち着いてきた。「ノルドハウス」というアウトドアブランドのキャンバスチェアを3脚並べて、私たちは縁側に腰を下ろした。麦茶を飲みながら、ソルトが庭を歩き回るのをぼんやり眺める。会話は途切れたり、また始まったりする。それでいい。
シベリアン・ハスキーは前向きで楽天的な一面があり、他の犬種より比較的ストレスを感じにくい
とされているけれど、こうして見ていると、ストレスを感じにくいのは犬だけじゃないと思う。ソルトがいると、なんとなく場がゆるむ。会話のテンポが変わる。友人たちとの時間が、少しだけ違う色になる。
日が傾いて、ソルトがようやく静かになった頃、麻里が「また来てもいい?」と聞いた。もちろん、と答えたら、ソルトが尻尾を振った。まるで聞こえていたみたいに。犬はいつも、人間よりちょっとだけ正直だ。
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