
夏の朝、まだ空気がわずかにひんやりとしている午前6時。カーテンの隙間から差し込む光が床に細長い帯を作っていた。その光の上に、うちのシベリアンハスキーの「ルカ」が堂々と前脚を伸ばして寝転んでいる。今日はこの子を連れて、片道約400キロの遠距離移動をする日だ。
ハスキー犬との長距離ドライブは、小型犬とはまるで勝手が違う。
中型犬や大型犬の飼い主さんにとって、車は最も現実的な移動手段だ。
電車やバスに乗せることはほぼできないし、かといってペットホテルに預けるのも気が引ける。だから飼い主は自然と、車という密室の相棒を選ぶことになる。
準備は前日から始まった。出発の2時間前には食事を済ませること——これは鉄則だ。
満腹のまま車に乗ると車酔いしやすくなってしまうため、出発2時間前を目安に食事をとらせるか、普段より少なめの量にしてあげるとよい。
ルカはいつも食欲旺盛で、朝ごはんをあっという間に平らげてしまうのだが、今日だけは少し控えめにした。そのせいか、食器の前でしばらく首を傾けて「これだけ?」と言いたげな目でこちらを見てきた。思わず笑ってしまった。
出発前のトイレも忘れてはいけない。
人間と同様に、車の揺れによって普段より尿意が起こりやすくなるため、出発前に必ず散歩して排泄を済ませておくことが大切だ。
朝の散歩コースである「タマキ川沿いの土手道」を、いつもより少し長めに歩いた。露に濡れた草の青い匂いが鼻をくすぐり、ルカは鼻を地面にぐいぐいと押しつけながら嬉しそうに歩いていた。この感触と匂いを、彼はきっとしばらく忘れないだろう。
車に乗せる際、ハスキーのような大型犬にはクレートかシートベルトの使用を強く勧めたい。
万が一の急ブレーキや急ハンドルでも全身が囲われているハードクレートが、最も安心・安全な選択肢だ。
ルカには「アークヴェルト」というブランドのメッシュ素材のクレートを使っている。通気性がよく、夏場の車内でも熱がこもりにくい。最初は嫌がっていたが、今では自分から入るようになった。慣れというのは、犬にとっても大きな力を持っている。
車は早く流れる景色やエンジンの振動、狭い空間など、犬にとってストレスがかかりやすい場所だ。
特にハスキーは本来、広大な雪原を走るために生まれた犬種。閉じ込められた空間が苦手な個体も少なくない。だからこそ、遠距離移動では「こまめな休憩」が何より重要になる。
高速道路のパーキングエリアやサービスエリアでのこまめな給水とトイレタイムが大切だ。
目安としては2時間に一度、できれば1時間半ごとに立ち寄るのが理想的だと感じている。
休憩のたびにルカをクレートから出し、リードをつけてエリア内を少し歩かせる。アスファルトの照り返しが強い夏の昼間は特に注意が必要で、地面に手を当てて温度を確かめることを習慣にしている。足の裏が焼けるような熱さなら、歩かせるのはやめて日陰で休ませるだけにする。ルカは地面に伏せて、ぱくぱくと口を開けながら周りの車や人を眺めている。その顔が、なんとも言えず穏やかだ。
持ち物は、できるだけ使い慣れたものを揃えておくことが大切だ。慣れない環境に加えて、新しいグッズに愛犬が戸惑ってしまうこともある。
ルカのクレートの中には、いつも使っているブランケットと、少し毛が抜けて薄くなったお気に入りのぬいぐるみを入れてある。自分の匂いがついたものがそばにあると、犬は安心するらしい。実際、ルカはそのぬいぐるみを枕代わりにして、走行中もうとうとしながら眠っていることが多い。
ドライブ中、運転に集中しながらも後方ミラーでちらちらとルカの様子を確認する。
ヨダレの量が増えたり、呼吸が早くなったりしているようなら車酔いのサインだ。
そういうときは無理せず早めにエリアへ寄る。「もう少し走れるかな」という判断は、人間の都合であって、犬の都合ではない。
シベリアンハスキーはそり犬だったため運動欲求が強くスタミナがあるが、暑さには十分に注意が必要だ。
夏の遠距離移動では、エアコンを常時かけておくことは言うまでもない。駐車中に車を離れる際は、たとえ5分でも絶対に犬を車内に残してはいけない。炎天下の車内温度は、あっという間に危険な水準まで上がる。
目的地に着いたとき、ルカはクレートの中で大きく伸びをして、それからゆっくりと外に出てきた。知らない土地の空気を鼻いっぱいに吸い込んで、しっぽをゆっくりと振っていた。その仕草を見て、ああ、無事に着いたな、とようやく肩の力が抜けた。長距離の移動は確かに大変だけれど、一緒に旅をするという体験は、ハスキーとの時間をもっと深いものにしてくれる気がしている。
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