晴れた朝、ハスキー犬と歩くと世界がちょっとだけ広くなる話

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空が高い。それだけで、なんとなく足が玄関へ向かってしまう。

今朝は午前七時を少し回ったころ、窓の外に広がる青が妙にきれいで、思わず「今日はいい天気だ」と声に出していた。誰に言うわけでもなく。でも隣でぐっすり眠っていたはずのソラが、その声を聞いて耳をぴくりと立てた。ソラは三歳になったシベリアンハスキーで、うちに来てからというもの、「散歩」という言葉には反応しないのに、なぜか飼い主の独り言には敏感に反応する。まったく、どこに耳を向けているのだか。

リードをつけると、ソラの体全体がふわりと前のめりになった。毛並みが朝の光を受けて、白と灰のグラデーションがやわらかく輝く。触れると少しひんやりしていて、それでいてどこか温かい。夏の朝特有の、あの湿気をまだ帯びていない空気の感触が、手の甲にそっと触れてくる。アスファルトの上には昨夜の雨の名残がうっすら残っていて、ソラの肉球がそこを踏むたびに、ぺたぺたと小さな音が続いた。

ハスキー犬はもともと犬ぞりの犬種として活躍してきたため、膨大な運動量が必要で、飼い主が先にへばってしまうこともある
と言われている。実際、ソラとの散歩を始めた最初の一か月、わたしは毎朝帰宅するたびにソファへ倒れ込んでいた。ソラはけろりとしたまま水を飲んで、また窓の外を眺めていた。あれはなんだったのか、今となっては少し笑える記憶だ。

近所の「ミドリ河川公園」沿いの遊歩道が、ソラのお気に入りのコースになっている。川沿いに植えられたケヤキ並木が風を受けてざわざわと揺れ、葉の間から差し込む光が地面に模様をつくる。その光の中を、ソラは鼻先を低くして歩く。においを読んでいるのだろう。立ち止まる、また歩く、また止まる。こちらのペースなど、はなから考慮されていない。

子どものころ、近所に大きな犬を飼っているおじさんがいて、毎朝その犬がリードをぐいぐい引っ張りながら歩いているのを見ていた。当時は「なんで犬に引っ張られてるんだろう」と不思議だったが、今はよくわかる。引っ張られているのではなく、ついていっているのだ。あの犬が何を嗅いで、何を感じていたのか、今ならすこし想像できる気がする。

散歩はシベリアンハスキーのストレス発散につながり、適切な散歩により犬と人間のコミュニケーションが深まり、絆が強まる
という。確かにそうだと思う。ソラと歩いていると、言葉を交わさなくても何かが通じているような感覚がある。川のにおい、草の湿り気、遠くから届くパン屋の焼き立ての香り——「ブランジュリー・ノア」という小さなお店で、朝七時から窯を動かしているらしく、公園の手前まで来るといつもバターの甘い匂いが漂ってくる。ソラも鼻をあげてそちらを向く。わたしたちの朝の、ひそかな楽しみだ。

シベリアンハスキーはとても賢く学習能力が高い犬種だが、好奇心旺盛な一面もあり、ほかのことに気が向きやすい
。ソラもまさにそうで、ふと立ち止まって空を見上げることがある。何かいるのかと目を凝らしても、わたしには何も見えない。ただ青い空があるだけだ。それでもソラはしばらく動かない。そういう時間が、なぜか嫌いではない。

今日はいい天気だった。ハスキー犬と歩く散歩は、時間の流れがすこし変わる。急がなくていい。立ち止まってもいい。世界は、思っていたより少しだけ広い。
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