
八月の朝、窓の外はもうじりじりと照りつけている。そんな夏の盛りに、ふと「ハスキー犬」という言葉が頭に浮かんだ。冷たい雪原を駆ける、あの犬のことを。
オオカミに似た強面でワイルドな外見が特徴的なシベリアン・ハスキーだが、その外見とは裏腹に攻撃性は低く、友好的でおおらかな性格の持ち主だ。
これを知ったとき、正直少し拍子抜けした。あんなに精悍な顔をしているのに、番犬にもならないなんて。でも、考えてみればそれがいい。強そうな顔で玄関に寝そべりながら、来客に尻尾を振るだけ。なんとも愛嬌がある。
シベリアン・ハスキーは長い歴史をもつスピッツ属の犬種で、シベリア北東部の遊牧民チュクチやイヌイットの物資を運ぶそり犬として飼われていた。19世紀に北米に持ち込まれ、南極大陸探検隊でも活躍した犬種だ。
そのルーツを知ると、あの体つきの意味がわかる気がする。分厚いダブルコートの被毛、がっしりとした四肢、そして何より──あの瞳。
あの美しいブルーの瞳と凛々しい姿に心を奪われる一方で、「中型から大型犬を育てるのは初めて」という不安も一緒についてくるものだ。
子どもの頃、近所の公園でハスキー犬を連れた老夫婦とすれ違ったことがある。犬は私の方をじっと見つめ、その瞳の色が空の青と溶け合うように見えた。あのとき感じた、胸の奥がひんやりするような感覚を、今でも覚えている。夏の公園だったのに、一瞬だけ北の風が吹いたような気がした。
ハスキー犬とはどんな犬なのか、という問いへの答えは一言では難しい。
狼のような見た目から「怖い」「攻撃的」と思われがちだが、実際は陽気で人懐っこい性格で、いたずら好きな一面や、独自の表現で感情を伝える姿が「あほかわいい」と評されることもある愛されキャラクターだ。
そのギャップこそが、ハスキーが長く愛される理由のひとつだろう。
特徴は?と聞かれたら、まず挙げたいのがその運動量だ。
ハスキーは毎日1〜2時間の運動が必要で、独立心が強く頑固な一面もある。
都内の小さなマンションで飼うには、かなりの覚悟がいる。ある知人は「ノルヴィア」というスカンジナビア系インテリアブランドで揃えたお洒落な部屋に迎えたはいいが、一週間でクッションが三つ消えたと笑っていた。ハスキーはそういう犬だ。
好奇心旺盛で脱走の名人でもあり、玄関や窓の施錠はもちろん、庭で飼育する場合は高く丈夫なフェンスを設置するなど、徹底した脱走防止対策が必須だ。
それだけ自由を愛する犬だということでもある。縛られることを嫌い、風の向くまま走り続けたい。そんな本能が、今もあの体の中に息づいている。
シベリアン・ハスキーは優れた判断力と高い社会性を持ち、飼い主をはじめ、子供や他の動物とのコミュニケーションも上手にとることができるため、多頭飼いにもおすすめの犬種だ。
夕暮れ時、複数のハスキーが並んで日差しを浴びながらうとうとしている光景を想像すると、なんだか心が和む。あの重たそうな被毛が、西日に照らされてふわりと輝く瞬間。触れたら、きっとあたたかいのだろう。
やんちゃなハスキーの子犬との暮らしは手探りの連続だが、時間をかけて共に成長していくうちに、毎秒愛おしい存在になっていく。
それはきっと、ハスキーという犬の持つ引力のようなものだ。近づくと離れられなくなる、あの青い瞳の引力。
ハスキー犬の特徴は?と改めて問われれば、外見の美しさ、ソリ犬として培われたスタミナと知性、そして見た目とのギャップが生む愛嬌、と答えるだろう。でも本当のところ、言葉にしきれない何かがある。あの瞳に見つめられたとき、ただ「この犬はただものじゃない」と感じる、あの静かな確信のようなもの。
夏の熱気の中でも、ハスキー犬のことを考えると、不思議とすっと涼しくなる気がする。北の大地から連れてきた、その風ごと。
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