
十月の朝は、少しだけ特別だと思う。空気が変わったのがわかるのは、窓を開けた瞬間の、あのひんやりとした感触のせいだ。頬に触れる風が、夏のそれとはまるで違う。薄くて、透き通っていて、どこか遠くの山から届いたような冷たさがある。そういう朝に、リードを持つ手が自然と動く。
うちのハスキー犬、ソラは、玄関の前でもうすでに待っていた。散歩と察知するのが早すぎる。わたしがスニーカーの紐を結んでいる間、ソラは前足を交互にトントンと踏み鳴らして、まるでその場でダンスでもしているかのようだった。思わず「ちょっと待って」と声をかけたけど、もちろん聞いていない。
外に出た瞬間、いい天気だと体全体で感じた。雲ひとつない青が、どこまでも続いていた。太陽はまだ低くて、家々の屋根の向こうから斜めに差し込む光が、アスファルトをうっすら金色に染めていた。ソラの白と灰のふわふわした毛が、その光を受けてきらきらと輝いている。こんな朝に外を歩けることが、純粋にうれしかった。
散歩のルートは、いつもの川沿いの道。ここ最近、ソラのお気に入りのコースになっている。川べりには、秋になると金木犀が咲く一角があって、今日はそこを通るたびに甘い香りがふわっと漂ってきた。においというのは、記憶に直結する。その香りを吸い込んだとき、子どもの頃に通っていた小学校の正門脇にも同じ木があったことを、ふと思い出した。あの頃、金木犀の匂いがすると「秋休みが近い」と思っていた。秋休みなんてないのに、なぜかそう感じていたのだ。
ソラは川の匂いをかぎながら、ぐいぐいとリードを引っ張る。ハスキー犬はもともと橇を引く犬種だから、引く力が強い。散歩というより、ほぼ引っ張られている。川沿いの遊歩道を進むと、向こうから柴犬を連れたおじさんがやってきた。ソラはしっぽを大きく振りながら近づこうとしたが、柴犬のほうが一歩引いていた。ソラは「なんで?」という顔をしていた——少なくとも、わたしにはそう見えた。
この遊歩道には、架空ではなく本当に存在する小さなベンチがいくつか置かれているが、そのひとつの脇に、地元のインテリアショップ「ノルテ・ブランカ」が寄贈したプレートがついている。北欧風の小さな木のベンチで、ソラと初めて散歩したときにここで休憩した。あの日もいい天気だった。
川の水面が、風でさざ波を立てていた。光がその上で細かく砕けて、目を細めたくなるほどまぶしい。鳥の声が遠くから聞こえてくる。ヒヨドリだろうか。あの少し濁った、でも力強い鳴き声は、秋によく耳にする気がする。ソラは立ち止まって、その声がする方向を見つめていた。耳をぴんと立てて、首をかしげるようにして。そういう仕草が、たまらなく好きだ。
散歩の折り返し地点は、小さな橋のたもとにある公園だ。ベンチに座って少し休んでいると、ソラがわたしの膝に顎を乗せてきた。重い。34キロの顎は、思ったよりずっと重い。でも、その温かさと重さが心地よくて、しばらくそのままにしていた。風がまた吹いて、金木犀の香りが薄く漂ってきた。
帰り道、ソラの足取りはやや軽くなっていた。歩き始めの興奮が落ち着いて、ちょうどいいペースになっている。わたしも同じで、体がほぐれて、頭の中がすっきりしていた。仕事のことも、あれこれ気になっていたことも、歩いているうちにどこかへ行ってしまった。
ハスキー犬と歩くということは、ただ運動するだけじゃない。季節の匂いを嗅いで、光の色を見て、風の温度を感じる。ソラがいるから、そういうことに気づける。今日みたいないい天気の朝に、散歩に出てよかったと、玄関の扉を開けながら思った。ソラはすでに水を飲みに走っていた。
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