
空が、やけに青かった。
九月に入ったばかりの朝、まだ夏の名残が空気に溶け残っているような、あの微妙な季節のはざまの一日。風は少し涼しくて、でも日差しはまだ容赦がない。そんないい天気の朝に、ルカは玄関先でもう待ちかまえていた。リードを手にした瞬間、あの大きな体がぐるぐると回りはじめる。シベリアンハスキー犬というのは、こういうとき、まるで全身で喜びを表明する生き物だ。
シベリアンハスキーはもともと極寒の地でソリを引いてきた犬種で、体は丈夫だが必要な運動量が多い。
だからこそ、散歩はただの「日課」ではなく、彼らにとって本質的な何かなのだと思う。
近所の「朝霞台緑道公園」を抜けるコースが、ルカのお気に入りだ。砂利道と芝生が混在していて、足裏に伝わる感触が変わるたびに、ルカの耳がぴくりと動く。今朝は草の上にまだ露が残っていて、ルカの足が踏むたびに、湿った土の匂いがふわりと立ち上がった。あの匂いは、子どもの頃に祖父の家の庭で嗅いだ匂いに似ている。朝早く起きて縁側に出ると、庭の土がしっとりしていて、空気が妙に澄んでいた。あの感覚が、ふいに戻ってくる。
ルカは立ち止まり、鼻を地面に押しつけてしきりに何かを嗅いでいた。たぶん昨夜ここを通った猫か、あるいは別の犬の痕跡か。飼い主としては「早く行こう」と思うのだが、ルカにとってはここが今日一番の情報収集タイムらしい。
散歩は、シベリアンハスキーのストレス解消や健康維持に役立つだけでなく、犬と人間の絆を深める時間でもある。
そう頭ではわかっているから、ぐっとリードを引くのをこらえて、ルカのペースに合わせることにした。
ハスキーは好奇心旺盛な一面があり、散歩中もほかのことに気が向きやすい。
それはもう、本当にそのとおりで。今日も途中で突然立ち止まり、空を見上げた。何もいない。鳥すらいない。ただの青空。いったい何を見ていたのか、飼い主にはまったくわからない。心の中で「何が見えてるんだ、君には」と静かにツッコんだのは、ここだけの話だ。
緑道を抜けると、少し開けた広場に出る。ここで毎朝、ベンチに座って缶コーヒーを飲んでいるおじいさんがいる。名前は知らないが、ルカとはすっかり顔なじみで、今日もルカが近づくと「おう、来たか」と言いながら、ごつい手でルカの頭をゆっくりと撫でた。ルカはその瞬間だけ、あの落ち着きのない体をぴたりと止める。
ハスキーは人懐っこく優しい性格で知られており
、こういう場面を見るたびに、その言葉の意味を実感する。
朝の光が木の葉を透かして、地面に細かい影を落としていた。ルカの白と灰色の被毛に光が当たると、毛の一本一本がきらきらと輝いて見える。
シベリアンハスキーは凛々しく神秘的な美しさから人気の高い犬種だ。
その美しさは、写真や動画越しではなく、こういう朝の光の中でこそ、はっきりとわかる気がする。
散歩を終えて家に戻ると、ルカはすぐに水を飲み、それからリビングの床にどさりと横になった。大の字で、ほんの数分前まであれだけ元気に走り回っていたとは思えない脱力ぶり。窓から差し込む秋口の陽光が、ルカの体の上にゆっくりと広がっていく。
ハスキーのブログを見ていると、毎日の散歩の様子や日常の何気ない一コマを丁寧に綴っている飼い主が多い。
それはきっと、こういう朝の小さな積み重ねが、言葉にしておきたいほど大切だからだろう。特別なことは何もなかった。ただ、いい天気だった。ただ、ハスキー犬と一緒に歩いた。それだけのことが、なぜかずっと記憶に残りそうな、そんな朝だった。
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