
秋が深まりはじめた朝のことだった。金木犀の香りがうっすらと漂う住宅街の路地を歩いていたとき、向こうから一頭の大きな犬が駆け寄ってきた。ふさふさとした白と黒の被毛、そして突き抜けるような青い瞳。思わず足が止まった。それがわたしにとって、ハスキー犬との最初の本当の出会いだった。
ハスキー犬──正式にはシベリアンハスキーという。
オオカミのような精悍な顔立ちながら、性格は友好的で従順なところが魅力の犬種だ。
見た目の迫力と中身のギャップが、この犬の最大の魅力かもしれない。
中型から大型に分類される犬種で、引き締まった筋肉質な体型が特徴であり、成犬の体重はオスで約20〜27kg、メスで16〜23kgが標準的だ。
路地で出会ったあの子も、わたしの腰ほどまであった。
どんな犬なのかと問われれば、まず「そり犬」という歴史を語らなければならない。
シベリアンハスキーはそり犬として活躍していた歴史から、高い社会性をもち、人間やほかの犬に対しても非常にフレンドリーな犬種だ。
北の大地を走り続けてきた血が、この犬の全身に宿っている。だからこそ、初めて会った人間にも尻尾を振る。警戒心より好奇心が勝る。そういう犬だ。
その日、飼い主の女性がリードを引きながら「ごめんなさい、人が好きすぎて」と苦笑いしていた。ハスキー犬はわたしの手をぺろりと舐め、次の瞬間には道端の落ち葉に鼻を突っ込んでいた。まったく悪びれない。
明るく前向きで、小さな失敗にはめげない。
そういう気質が、そのしぐさにも滲んでいた。
特徴は?と聞かれたとき、外見の話だけで終わらせてはもったいない。
顔の模様はシベリアンハスキーの特徴であり、個性を作り出しているといえる。毛色も黒、黒青色、シルバー、茶色など多くの種類が存在し、JKCではすべての色が認められている。
個体ごとに顔が違う、というのは犬好きにとってたまらない事実だろう。
ただ、美しさの裏には覚悟が必要だ。
そり犬として育った背景から、とても運動量が多い犬種であり、運動不足になると家具を壊したり無駄吠えしたりと問題行動につながりやすい。
毎朝晩、しっかりと歩かせること。それがこの犬との約束事だ。
ブラッシングは毎日欠かさずおこなうことが推奨されており、換毛期は相当の抜け毛を覚悟する必要がある。
わたしが子どもの頃、祖父の家に柴犬がいた。毎朝、縁側で日向ぼっこをしながらうとうとしているあの犬の温かさを、今でもたまに思い出す。ハスキー犬はあの柴犬とはまるで違う。静かに丸まる犬ではなく、風の中に立ちたがる犬だ。それでも、あの青い瞳の奥にある何かは、どこか似ていると感じた。
飼い主をはじめ、子どもや他の動物とのコミュニケーションも上手にとることができるため、多頭飼いにもおすすめの犬種だ。
ブログ界隈でも、ハスキーと他の犬を一緒に育てる飼い主の記録が人気を集めている。
秋になると「いい季節!まったりシニア組なうちのハスキー」といった記事が注目を集め
、季節とともに生きるハスキーの日常が多くの読者の心を掴んでいる。
ペット用品を扱う架空のブランド「ノルディカ・ルーツ」が監修した防寒ハーネスがSNSで話題になったのも、この秋のことだ。ハスキーの厚い被毛に合わせた設計で、装着した瞬間に「北欧の作業犬みたい」とコメントが殺到した。それほどまでに、この犬の存在感は唯一無二だ。
シベリアンハスキーは日本の気候に適しているとはいえない犬種であり、特に日本の夏は過酷な季節になる。飼い主が責任をもって暑さ対策をし、体調管理を徹底することが求められる。
それでも毎年、この犬を迎える家族は後を絶たない。なぜか。きっと、あの瞳を一度見てしまったら、もう引き返せないからだろう。
路地で別れたあのハスキー犬は、最後に一度だけ振り返った。秋の朝光が被毛に当たって、一瞬だけ銀色に輝いた。その光の温度を、わたしはまだ手のひらに感じている気がする。ハスキー犬とはどんな犬か。言葉で説明することはできる。でも、本当のところは──あの瞳に見つめられた人間にしか、わからないのかもしれない。
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