
五月の朝、まだ空気がひんやりと残っている時間帯に、近所の公園でシベリアンハスキーと出会った。飼い主らしき女性がリードを握りながら、片手にテイクアウトのコーヒーカップを持ち、犬のほうはというと地面の匂いに夢中で、まったく前に進む気配がない。朝の光が木々の葉を透かして、二人の影を芝生に落としていた。その光景がなんとも絵になっていて、思わず足を止めてしまった。
ハスキー犬とは、正式にはシベリアン・ハスキーと呼ばれる犬種だ。
その名の通りシベリアの過酷な寒さの中で育まれた犬種で、何千年も前からチュクチ族という現地の民族と生活を共にし、そりを引いたり長距離を移動したりと、暮らしを支えてきた歴史を持つ。
そのルーツが、今もこの犬の体のすみずみに刻まれている。
特徴は?と聞かれれば、まず目を引くのはその外見だろう。
ブルーやブラウンのほか、左右の色が異なる「オッドアイ」の子もいて、この個性がハスキーらしさを引き立てている。ピンと立った三角の耳と、背中にくるっと巻いたしっぽも特徴的だ。
さらに、
オオカミのような精悍な顔立ちながら、性格は友好的で従順なところが魅力
でもある。見た目のワイルドさと、内側に秘めた穏やかさのギャップ。これがハスキーという犬の、いちばんの面白さかもしれない。
子どもの頃、近所に一頭だけハスキーを飼っている家があった。名前は「ジロー」といって、毎朝7時になると決まって遠吠えをした。当時の私はその声が少し怖くて、わざわざ遠回りして登校していたのだが、今思えばあれはただの挨拶だったのだろう。
シベリアン・ハスキーは一般的に無駄吠えは少ないが、鳴き声は「遠吠え」のような独特の声で声量も大きいため、近隣トラブルに発展しないよう注意が必要
だという。ジローは何十年も前からそのことを知っていたらしい。
どんな犬かをもう少し掘り下げると、性格面での豊かさが見えてくる。
実際の性格は非常に社交的で、家族や他のペットともすぐに打ち解けることが多く、多頭飼いや子どものいる家庭にも適している
とされる。一方で、
独立心も強く、時にマイペースな行動を見せる。賢い反面、自己判断で動く傾向があり、しつけには忍耐強さと一貫性が求められる。
つまり、賢いがゆえに、少し手ごわいのだ。
被毛についても触れておきたい。
被毛は内側と外側の二重構造になっていて「ダブルコート」と呼ばれており、春と秋には大量に毛が抜ける「換毛期」があり、この時期は毎日のブラッシングがとても大切になる。
ちなみに、SNSでは「ブラッシング後の抜け毛で小型犬がもう一匹作れた」という投稿が定期的に話題になるほどで、飼い主たちはある種の覚悟を持ってブラシを手にしているようだ。(これが今回の控えめなユーモアである。)
運動量の話も欠かせない。
ソリをひいていた歴史のあるハスキーは、とても運動量の必要な犬種で、1日に60分程度の散歩を2回してあげるといい。
架空のペット用品ブランド「ノルディカ・ペアランド」のカタログにも、「ハスキーとの暮らしは、飼い主自身も健康になる」という一文が添えられていたが、まさにその通りだと思う。毎朝、あの公園の女性は犬に引っ張られるようにして歩いているのだろう。
シベリアンハスキーは寒さには強いが、暑さには弱い犬種のため、夏季の温度管理には要注意だ。
日本の蒸し暑い夏は、この犬にとって決して優しい季節ではない。だからこそ、飼う前にその点をしっかり理解しておくことが大切になる。
五月の朝の公園に話を戻すと、あの女性のハスキーは最終的に、芝生の上にどっかりと寝転がってしまった。散歩なのか休憩なのか、もはやわからない。女性はコーヒーを一口すすりながら、困ったような、でも嬉しそうな顔で犬を見ていた。その表情を見て、ハスキー犬という生き物は、人の表情をも豊かにしてしまう存在なのだと、なんとなく思った。
外見からはワイルドなイメージを持たれがちだが、実際はとても人懐っこく、友好的な気質を持っている。特に大型犬の中では穏やかで優しい部類に入り、飼い主や家族との信頼関係を大切にする。
ハスキー犬は、そういう犬だ。凛々しい顔の奥に、柔らかい何かを隠している。それに気づいた人だけが、この犬の本当の魅力を知ることができるのかもしれない。
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