
七月の朝、まだ空気がひんやりと残っている時間帯に、近所の公園でその犬と目が合った。青みがかった灰色の毛並みに、宝石のように透き通った水色の瞳。思わず足が止まった。「シベリアンハスキーです」と飼い主さんが教えてくれたとき、なるほど、と妙に納得した記憶がある。
ハスキー犬は、正式名称をシベリアン・ハスキーという。もともとはシベリアの先住民族チュクチ族が、極寒の地でそりを引かせるために何世紀もかけて育て上げた犬種だ。過酷な環境を生き抜くために鍛えられた体と、群れで働くことへの本能的な適性を持っている。だから、どんな犬なのかと聞かれると、一言では答えにくい。ただ「かっこいい」だけでも「かわいい」だけでも収まりきらない、不思議な存在感がある。
体格は中型から大型の間くらい。オスで体重が20〜27kg前後、メスはやや小柄になる。特徴的なのは、なんといってもその顔立ちだ。アーモンド形の目は、ブルー・ブラウン・アンバー、そして左右で色が違うオッドアイのものもいる。耳はピンと立った三角形で、マズルはすっきりとシャープ。初めて見る人が「オオカミみたい」と言うのも、まあ無理はない。
被毛はダブルコートで、柔らかいアンダーコートと硬めのアウターコートの二層構造になっている。これが極寒の地での断熱材として機能していた。だから夏の暑さはかなり苦手で、
「5℃でも暑い雰囲気を醸し出すシベリアン」
と飼い主たちがブログに書くほど、見た目からして涼しさを求めているような風情がある。換毛期には大量の毛が抜け落ち、
「ハスキーだもの!換毛期がきた?」
という投稿が毎年春になると飼い主たちの間で話題になる。掃除機との戦いは、ハスキーオーナーの宿命と言っても過言ではないかもしれない。
性格は、一般的に友好的で明るく、社交的だと言われている。見た目の凛々しさとは少し裏腹に、甘えん坊な一面も持ち合わせている。
飼い主が仕事から帰宅すると、ベッドのど真ん中で枕を使って熟睡していたハスキーの姿が話題になった
という話もあるくらいで、堂々と人間のベッドを占領するその図々しさ(愛嬌とも言う)は、ハスキーらしさのひとつかもしれない。
運動量は非常に多い。もともとが一日何十キロも走ることを前提に作られた犬種だ。散歩は一日2回、各30〜60分は最低でも必要とされており、運動が足りないとストレスから問題行動につながることもある。「ハスキーを飼いたいなら、まず自分の体力を鍛えよ」という先輩飼い主の言葉は、あながち冗談でもない。
ただ、そういう大変さを差し引いても、ハスキー犬と暮らす日々は特別なものがあるらしい。
やんちゃなハスキーの子犬との暮らしは手探りの連続だったが、2年後には「毎秒愛おしい」存在になった
という飼い主の言葉が、すべてを物語っている。
子犬のころは耳が垂れていることもある。
生後2カ月のころは垂れていた両耳が、半月ほどで立ち上がってくる
という変化も、成長の記録として多くの飼い主がSNSに残している。その短期間での変化の愛らしさが、また人々を虜にする。
私が子どもの頃、実家の近くにハスキーを飼っているお宅があった。名前は「ノア」といって、雨の日でもずぶ濡れで庭を駆け回っていた。当時の私は怖くて近づけなかったのだが、ある日、門の隙間からそっと手を差し伸べたら、ノアはゆっくり近づいてきて、大きな鼻をそっと押し当ててきた。その感触が、冷たくて、湿っていて、でも妙にあたたかかった。あの瞬間のことは、今でも妙にはっきり覚えている。
ペットショップ「ノルディカ・ハウス」のスタッフによれば、ハスキーへの問い合わせは近年じわじわと増えているという。見た目の美しさと個性的な性格が、SNS映えする時代とうまく噛み合っているのかもしれない。ただ、衝動的に迎えることだけは避けてほしいとも言っていた。飼育の難しさと、その分だけ深い絆が生まれることの両方を、きちんと理解した上で選んでほしい犬種だ。
ハスキー犬は、どんな犬かと問われれば、こう答えたい。見た目は狼のようで、心は子どものように純粋で、体は雪原を駆けるために生まれてきた。そして、一度目が合ったら、なぜかもう一度会いたくなる。そういう犬だ。七月の朝の公園で感じたあの引力は、きっとそういうことだったのだと思う。
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