いい天気に誘われて——ハスキー犬と歩いた、あの朝の散歩のこと

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九月の朝は、まだ少しだけ夏の名残をはらんでいる。空気がひんやりと頬をなでる感覚があるくせに、日差しはどこか強引で、「もう秋だよ」と言いながら肩をじりじりと焼いてくる。そんないい天気の朝、ルーカスはリードを引っ張って玄関の外へ飛び出した。

ルーカスというのは、うちのシベリアンハスキー犬だ。グレーと白のまだら模様に、氷のように澄んだ青い瞳。体重は三十キロ近くあるのに、歩き出すとまるで風みたいに軽い。散歩に出るたびに思う。この子は、歩くために生まれてきたんじゃないかと。

近所にある「カナルロード公園」という、川沿いに細長く伸びた遊歩道が、わたしたちのお気に入りのコースだ。朝の八時ごろ、ベンチにはまだ人もまばらで、犬の足音と川のせせらぎだけが静かに混ざり合っている。ルーカスはそこを、鼻をひくひくさせながら、ぐいぐいと進んでいく。草の匂い、土の匂い、どこかの家から漂ってくるコーヒーの香り。彼の鼻はきっと、わたしには届かないたくさんのものを受け取っているのだろう。

子どもの頃、父と一緒に犬の散歩をしていたことを思い出す。あのときの犬は柴犬で、名前はコウタといった。コウタはのんびり屋で、においを嗅ぐたびに立ち止まり、父がため息をつくのが常だった。ルーカスはその正反対で、とにかく前へ前へ。わたしが少し歩調を緩めようとすると、振り返って「なにしてるの?」とでも言うように首をかしげる。その顔が、なんともいえず愛しい。

今日はとくにいい天気で、空の青さがルーカスの瞳の色と張り合っているみたいだった。葉っぱの隙間から光が差し込んで、地面に細かいレースのような模様を作っている。風が吹くたびにそのレースが揺れて、ルーカスはそれを踏みながら歩く。何も知らずに、ただ楽しそうに。

ハスキー犬という生き物は、もともと極寒の地で橇を引くために生きてきた。その血が、今もこの子の足の裏に宿っているのかもしれない。だからこそ、散歩のときのルーカスは別人のようにいきいきとしている。家の中ではソファに溶けるように眠っているくせに、外に出た瞬間、目の色が変わる。

ちなみに今日は、出発直前にリードを二本持ってきてしまった。予備のつもりで鞄に入れていたものをうっかり両手に持ち、ルーカスに「どっちにつなぐの?」と首をかしげられた。心の中で小さく「ごめん」とつぶやきながら、こっそり一本をポケットに戻した。

川沿いの道を折り返すころ、ルーカスの足取りが少しだけゆっくりになる。それでも耳はぴんと立ったまま、遠くの音を聞いている。自転車のベルの音、誰かが遠くで呼ぶ声、鳥の鳴き声。ハスキー犬はおしゃべりな犬種だと聞くが、ルーカスは散歩中はほとんど無口だ。代わりに、全身で世界を感じている。

帰り道、朝の光がさらに強くなって、アスファルトがじんわりと温かくなり始めていた。ルーカスの白い毛が光を弾いて、まぶしいくらいに輝いている。わたしはその背中を見ながら、今日もいい一日になりそうだと思った。

散歩というのは、目的地のない旅に似ている。どこかに着くわけじゃない。ただ歩いて、感じて、また家に帰る。それだけのことなのに、ルーカスと一緒だとその「それだけのこと」が、どうしてこんなに豊かに感じられるのだろう。

ハスキー犬を飼うということは、毎日少しずつ、世界の見え方が変わっていくことだと思う。あの青い瞳が見ている景色を、わたしも一緒に見たくて、今日もリードを握る。いい天気の朝に、また明日も。
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