
ハスキー犬と一緒に暮らしていると、毎朝の散歩がこんなにも豊かな時間になるとは、正直、飼い始めるまで想像していなかった。
シベリアンハスキーはもともと犬ぞりの犬種として活躍してきた歴史を持ち、膨大な運動量を必要とする犬だ。
だから最初のころ、わたしはただ「義務」として散歩に出ていた。リードを持ち、眠い目をこすりながら、まだ暗い路地を歩く。それだけのことだった。
転機は、ある秋の早朝に訪れた。
午前六時を少し回ったころ、空の端がうっすらとオレンジに染まりはじめていた。金木犀の香りが路地の角を曲がるたびにふわりと漂い、アスファルトはまだ夜の冷たさを残していた。そのとき、隣を歩くうちのハスキー犬・シロが、不意に立ち止まって鼻を高く上げた。何かを嗅ぎとっている。その横顔が、朝の光の中でなんとも凛々しく見えて、わたしははじめて「この子と一緒に歩くことが好きだ」と思った。
シベリアンハスキーは感情を全身で表現する犬種で、散歩中に好きな人に出会うと、ちぎれんばかりに尻尾を振ったり、飛び跳ねたりする。
シロも例外ではなく、いつも立ち寄る「ノーザンフィールドパーク」の入り口に差し掛かると、全身でよろこびを爆発させる。その様子を見ていると、こちらまで自然と笑顔になってしまう。
では、どうすればハスキーも飼い主も楽しく散歩できるのか。結論から言えば、コツは三つある。
ひとつ目は、**時間帯を選ぶこと**だ。
寒冷地原産のハスキーは暑さに弱いため、散歩は暑い時間を避け、早朝や日没後に行うことが推奨されている。
夏場はとくに、アスファルトの熱が肉球を傷める。わたしが朝の散歩を習慣にしたのも、もともとはそういう理由からだった。けれど気づけば、その時間帯の静けさ自体が好きになっていた。鳥の声、遠くを走る始発電車の音、自分たちの足音だけが聞こえる道。あの感覚は、昼間の散歩では絶対に得られない。
ふたつ目は、**引っ張りへの対処法を身につけること**だ。
ハスキーはそり犬の本能から、リードを強く引っ張る「引っ張り癖」がある。むやみに制限するのではなく、引っ張りそうになったら声がけやおやつで気をそらすなどして、引っ張りたい気持ちを上手にコントロールしてあげることが大切だ。
これを知らなかった最初のころ、シロに引っ張られて転びそうになったことが何度あったか。一度など、水たまりに片足を突っ込んで帰宅したこともある。あのときの靴下の冷たさは、今でも鮮明に覚えている(シロは一切気にしていなかった)。
三つ目は、**ゴールを決めすぎないこと**だ。
完璧を目指そうとせず、その子に合ったペースで向き合うことが大切だ、
とある飼育の専門家は言う。これは散歩にも当てはまる。「今日は30分で帰ろう」と決めていても、シロが何かに夢中になっていたら、少しだけ立ち止まって待ってあげる。その余白が、散歩を義務から楽しみへと変えてくれた。
ハスキーは長距離を歩いたあとでも、まだ散歩に行きたいという意思表示をすることがある。
そのスタミナには、飼い主として毎回驚かされる。
シベリアン・ハスキーは体格が大きくてパワフルな大型犬であるため、運動不足やストレスが溜まりやすく、散歩は毎日欠かさず行うことが理想的だ。
だからこそ、飼い主自身も体力をつけておくことが、意外と重要だったりする。
今朝も、シロとふたりで「ノーザンフィールドパーク」を一周してきた。帰り道、シロはわたしの左足のすぐ隣をぴったりとついて歩いていた。リードはゆるく、風はひんやりと頬に触れていた。何も特別なことは起きていない。でも、それがいい。ハスキー犬との散歩の醍醐味は、きっとそういう何でもない朝の積み重ねの中にある。
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