ハスキーと歩く、いい天気の午前中――青い瞳が空に溶けていく散歩の話

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空が高い。

九月の朝、窓を開けたとたんに光が部屋へなだれ込んできた。夏の重さが少しだけ抜けて、空気に透明感が戻ってきたこの季節。「今日はいい天気だな」と思った瞬間、もうリードは手の中にあった。

ノアが玄関で待っている。グレーとホワイトの毛並みを持つ三歳のシベリアン・ハスキー犬で、青い瞳はいつも少し遠くを見ている。ドアが開く音を聞いただけで全身がスイッチの入ったように動き出す。しっぽが弧を描き、前足が床をこつこつと叩く。
ハスキーは体を動かすことを喜び、散歩やドッグランで走り回るのが大好きな犬種だ。
そのことは頭でわかっていても、毎朝この光景を見るたびに、なんだか胸の奥がほどけるような気持ちになる。

シベリアン・ハスキーはもともと寒い地域でソリを引く犬として活躍していた犬種であることから、筋肉量もスタミナも多い傾向にある。
だから散歩に出ると、こちらがリードを持っているのか、引っ張られているのかが曖昧になってくる。今日も出発して三十秒で、わたしの歩幅はノアのペースに合わせて自然と広がっていた。

近所の「ミドリ川沿い遊歩道」に差し掛かると、朝露がまだ草の上に残っていた。踏みしめるたびに、湿った土と草の青い香りが足もとから立ちのぼってくる。ノアはそれを鼻で丁寧に読んでいくように、くんくんと地面に顔を近づけながら歩く。その横顔は、なんというか、真剣そのものだ。世界のすべてのにおいを記録しようとしているみたいな、そういう顔をしている。

シベリアンハスキーは寄り道をあまりせず、サクサクと真っすぐ進んで行くタイプ
だとよく言われるけれど、ノアはちょっと違う。気になるものがあれば立ち止まり、においを確かめ、それでも納得がいかないとまた戻ってくる。飼い主が散歩に連れていくというより、むしろわたしがノアの探検に同行している感覚に近い。

川沿いの道を歩いていると、対岸の木々がざわりと揺れた。風が来た。九月の風はまだ少し温かくて、でも夏とは明らかに違う。頬に当たる感触が、さらりと軽い。ノアの長い毛もふわりとなびいて、一瞬だけ、彼女がもっと遠い場所の生き物に見えた。

子どもの頃、祖父の家の近くにシベリアン・ハスキー犬を飼っているお宅があった。名前は「ゴロ」といって、わたしはそのオオカミみたいな顔が怖くて、近づけなかった。でも今、こうしてノアと毎朝歩いていると、あの頃の怖さが不思議でならない。ノアはわたしが立ち止まると、必ずこちらを振り返る。「どうしたの」と言いたそうな目で。その目が青くて、空と同じ色をしていて、毎回すこし、息をのむ。

いい天気の日の散歩は、特別だと思う。光が地面にやわらかく落ちて、影が長く伸びて、犬と人間がそれぞれ自分のペースで世界を感じている。そういう時間が、一日の中でいちばん贅沢かもしれない。

ちなみに今日、川沿いのベンチで少し休もうとしゃがんだ瞬間、ノアがわたしの顔をべろりと舐めた。タイミングが完璧すぎて、思わず笑った。愛情表現なのか、顔についていた朝ごはんの残りを狙っていたのか、そこだけは永遠にわからないままでいい気がしている。

愛犬にとって散歩は、ストレス解消や健康の維持など、無くてはならない大切な行為だ。
それはハスキー犬にとっても、飼い主にとっても、同じことが言えると思う。ノアと歩くいい天気の朝は、わたしにとっても一種の「充電」になっている。

遊歩道の終わりに差し掛かると、ノアはいつも一度だけ立ち止まって、来た道を振り返る。今日もそうした。青い瞳が光を受けて、少しだけ輝いた。それだけのことなのに、また明日も歩こうと思う。ただそれだけで、十分だった。
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