ハスキーと歩く、光の中の午前――晴れた日の散歩が教えてくれること

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空が妙に青かった。

雲ひとつない、というより、雲が恥ずかしくなって逃げ出したような青さで、朝の十時ごろの光がアスファルトにまっすぐ落ちていた。そんな日の朝、ハスキー犬のノルテはもう玄関で待っていた。リードを手に取る前から、すでに準備万端という顔をして。

ノルテという名前は、北極圏の風を意味するスペイン語から拝借した。生後三ヶ月のころ、ケージの中で初めて会ったとき、その瞳が薄い氷色をしていて、思わずそう呼びたくなった。あの日のことは、今でも妙にはっきり覚えている。

玄関を出た瞬間、金木犀の残り香がした。もう季節的には少し遅いはずなのに、どこかの庭からまだかすかに漂ってくる。甘くて、少しだけ切ない匂い。ノルテはそれをまったく気にせず、鼻を地面に押しつけながら歩き出した。彼にとっての世界は、もっと地面に近いところにある。

住宅街の路地を抜けると、小さな公園に出る。「ヴェルデ緑地公園」という、少しだけ洒落た名前のついたその場所は、地元の人間しか知らないような、ひっそりとした緑の一角だ。ベンチが三脚と、古い鉄棒と、それから誰かが忘れていったプラスチックのボールがひとつ。管理が行き届いているとは言えないけれど、それがかえって居心地よかった。

ノルテは公園に入ると、速度を上げた。

ハスキー犬というのは、もともとシベリアの雪原を何十キロも走るために生まれた犬だ。その血が、こんな小さな公園の中でも滲み出てくる。引っ張る力が強くて、リードを握る手に確かな重みが伝わってくる。冬の朝の空気が肺に入ってくる感覚と、その引力が重なって、なんだか自分も走らされているような気持ちになる。

子どものころ、犬を飼いたくてたまらなかった時期がある。団地暮らしだったから叶わなくて、代わりに近所のおじさんの柴犬を毎日撫でに行っていた。名前はたしか「ごんた」。気難しい犬で、よく知らない人には吠えるくせに、なぜか自分にだけは尻尾を振ってくれた。あの感触を、今でも手のひらが覚えている気がする。

ノルテが急に立ち止まった。

何かの匂いを嗅ぎつけたらしく、鼻をひくひくさせながら草むらに顔を突っ込んでいる。何もいないのに、真剣な顔で。その横顔があまりにも真剣すぎて、少し笑ってしまった。何を見つけたつもりでいるのか、本人にしかわからない。

いい天気というのは、人間を少しだけ正直にする。

晴れた空の下を歩いていると、ふだん考えないようにしていることが、ふっと浮かんでくることがある。仕事のこと、誰かに言えなかった言葉、もう少し早く起きればよかったという後悔。でも、ノルテが前を向いて歩いている限り、そういうものは後ろに流れていく。引きずる暇を与えてくれない。

散歩というのは、犬のためだと思っていた。でも、もしかしたら逆かもしれない。

光の角度が変わって、ノルテの白と灰色の毛が一瞬、銀色に光った。風が少し吹いて、彼の耳がぴんと立った。その耳の形が好きだ。三角形の、きちんとした耳。感情がそのまま出る耳。

公園を一周して、また住宅街に戻る。帰り道はいつも、少しだけゆっくり歩く。ノルテもそれを知っているのか、行きよりも落ち着いた足取りになる。すれ違ったお年寄りが「きれいな犬ねえ」と言って立ち止まった。ノルテはちゃんと座って、撫でられるのを待っていた。そういうとき、この犬はなかなか賢いと思う。

家に戻ると、玄関でリードを外す。ノルテはすぐに水を飲みに行く。

その音を聞きながら、今日もいい朝だったと思う。特別なことは何もなかった。ただ歩いて、光の中にいただけ。でも、それで十分だった。晴れた日の散歩は、いつもそれだけのことを、ちゃんと教えてくれる。
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