
五月の末というのは、不思議な季節だと思う。夏の手前で、まだ風がやわらかくて、日差しだけが少し先を急いでいる。今日、友人たちがハスキー犬を連れてうちにやってきた。
名前はルカ。
青い目、あるいは左右の目の色が違う「オッドアイ」が大きな魅力ポイント
だと聞いていたが、実際に目の前で見ると、その眼の色の透明さに少し息を呑んだ。グレーとホワイトの被毛が午後の光を受けてやわらかく輝いていて、まるで毛の一本一本が風に揺れているみたいだった。庭に出た瞬間、ルカは地面の匂いを確かめるように鼻をつけ、次の瞬間には芝生の上を全力で走り始めた。あの加速は、なんというか、見ていてちょっと怖いくらいだった。
オオカミを思わせる精悍な顔立ちながら、性格は人懐こくて甘えん坊。頼りがいのある容姿と愛らしい性格のギャップもハスキーの魅力のひとつだ。
ルカはまさにそのとおりで、走り疲れると今度は友人たちの足元にどっかりと座り込んで、順番に顔を舐めてまわっていた。
友人のひとりが「ちょっと待って、コーヒー淹れてくるね」と席を立ち、しばらくして戻ってきた。彼女がマグカップを差し出してくれたとき、ルカがちょうどそのタイミングで彼女の膝に顔を乗せた。カップが少し傾いて、コーヒーがわずかにこぼれた。「もう、ルカ!」と笑いながら彼女は叫んだけれど、ルカは何も悪いことをしたとは思っていないような顔で尻尾を振り続けていた。ルカの中では、きっと「いいタイミングで甘えた」という自己評価なのだろう。
庭には近所の雑貨店「ソルスタンド」で買ってきたアウトドアチェアをいくつか並べていた。緑と白のストライプで、少しレトロな雰囲気がある。そのチェアに腰掛けながら、友人たちと他愛もない話をしていると、ルカが芝生の上に寝転がって空を見上げ始めた。大きな体をゆっくりと横たえて、目を細めている。五月の風が吹くたびに、その長い被毛がふわりと揺れた。手を伸ばして触れると、思ったよりずっとやわらかくて、温かかった。
子どもの頃、実家で飼っていた雑種の犬を思い出した。名前はクロで、夏になると縁側でこんなふうに寝そべっていた。あの頃は犬と一緒にいることが当たり前すぎて、その時間の贅沢さに気づいていなかった。ルカの背中に触れながら、なんとなくそのことを考えた。
シベリアンハスキーはそり犬だったため運動欲求が強く、エネルギーが充分に消費されないとストレスをためてしまうことがある。
だから今日みたいに広い庭で友人たちと一緒に遊ぶ時間は、ルカにとっても本当に必要な時間なのかもしれない。ボールを投げると全力で追いかけ、戻ってきたと思ったら今度は全員の顔を確認するように見回す。その動作がとても律儀で、思わず笑ってしまった。
現在では、日本人の犬の飼育技術が向上し、ハスキーのような犬種でもしっかりとトレーニングをこなし、住環境を整えられるようになったことで、ハスキーの人気が再び高まっている。
こうして実際にハスキー犬と過ごしてみると、その人気が再燃している理由がよくわかる気がした。
午後三時を過ぎると、日差しが少し傾いて、庭に長い影ができ始めた。金木犀ではなく、この時期は何の花だろうと思いながら鼻を澄ませると、どこかから甘い草の香りが漂ってきた。ルカはまだ走り足りないのか、友人たちの間をぐるぐると歩き回っていた。
友人たちとハスキー犬が一緒に遊ぶ姿を見ていると、時間の流れがゆるやかになる感じがした。特別なことは何もない。ただ、五月の午後に、青い瞳の犬がいて、コーヒーがこぼれて、みんなで笑った。それだけのことが、妙に鮮明に心に残っている。
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