
空が白みはじめた早朝6時すぎ、玄関のドアを開けると冷たい空気がふわりと頬に触れた。10月の朝はもうすっかり秋の匂いがする。枯れ葉と、湿った土と、どこか遠くの誰かの家から漂ってくるコーヒーの香り。そんな静かな朝に、ハスキー犬のルナは全身でよろこびを爆発させていた。
ハスキー犬と一緒に暮らしはじめて気づいたことがある。この犬は、散歩に行くと決まった瞬間から、もう別の生き物になる。
リードを手に取るだけで、あの大きな体が弾けるように動き出す。ルナも例外ではなかった。玄関先でくるくると回転し、尻尾が見えないくらいの速さで揺れる。そして私の顔をまっすぐ見上げ、青い瞳でじっと訴えてくる。「早く行こうよ」と。
私がハスキーを飼いはじめたのは、3年前の秋のことだ。子どもの頃から大型犬に憧れていて、図鑑でシベリアンハスキーのページを何度も折り返していたのを今でも覚えている。でも実際に飼ってみると、最初の散歩は正直なところ、修行に近かった。リードをぐいぐい引っ張られ、交差点で急に方向転換され、気づいたら私が引きずられていた。腕が痛い。膝も笑っている。これが「散歩」なのかと、少しだけ途方に暮れた。
転機になったのは、あるシンプルなコツを知ったことだった。
シベリアンハスキーは暑さに弱いため、夏場は涼しい時間帯に散歩をするのが鉄則だ。朝早めか、日が傾いてから。
時間帯を固定することで、犬の体内リズムが整い、落ち着いて歩けるようになる。それだけでなく、飼い主である私自身も、その時間を「自分のための時間」として意識できるようになった。毎朝6時に起きる。ルナのリードを持つ。ただそれだけのことが、一日のはじまりを丁寧にしてくれた。
四季を楽しむハスキーとのアウトドア体験も、散歩の魅力のひとつだ。春の桜並木散歩、夏の川遊び、秋の紅葉狩りなど、愛犬と一緒に楽しめる季節の変化がある。
今日歩いた道には、ちょうど色づきはじめたイチョウ並木が続いていた。黄色と緑が混ざり合って、朝の光の中でやわらかく輝いている。足元には薄く落ち葉が積もり、ルナが踏むたびにさくさくと音がした。その音が、なんとも気持ちよかった。
コースに変化をつけることも、散歩を楽しくするうえで大切なことだ。いつも同じ道を歩いていると、犬も人も少しずつ飽きてくる。週に一度は知らない路地や公園を選んでみる。今日は「ノルドパーク緑地」という小さな公園に立ち寄ってみた。ベンチに座ったお年寄りがルナを見て目を細め、「きれいな犬ね」と声をかけてくれた。ルナは一瞬だけ立ち止まり、その人の方をちらりと見た。そして何事もなかったかのように、また歩きはじめた。愛想がいいのか悪いのか、いまだによくわからない。
シベリアンハスキーはもともと犬ぞりの犬種として活躍してきたため、膨大な運動量が必要だ。最低でも60分、毎日2回の長距離・長時間の散歩が理想的とされている。
飼い主が先にへばってしまうこともある、というのは本当の話で、私も何度か「もう帰ろう」と思いながらルナに引っ張られ続けたことがある。でも、それも今となっては笑える記憶だ。
散歩のコツは、実はシンプルだと思う。時間帯を決めること、コースに変化をつけること、そして何より「犬と一緒にいる時間を楽しむ」と決めること。技術や道具よりも、その気持ちひとつで、散歩の質は大きく変わる。
今朝、公園の出口あたりでルナが突然立ち止まり、空を見上げた。風が吹いて、葉が揺れた。ルナの白と黒の毛並みが、朝の光の中でふわりとなびいた。私もつられて空を見上げた。雲ひとつない、澄んだ青だった。
ハスキー犬と歩く朝は、なんだかんだで、最高だと思う。
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