
十月の末、朝の空気がきりりと冷えてきた頃のことだ。わたしは愛犬のハスキー犬・ロキを後部座席に乗せ、片道五時間ほどの遠距離移動を計画していた。行き先は長野の山あいにある小さな町。友人が「ノルドヴィラ」という名の古民家リノベ宿を開いたのだ、ぜひ来てほしいと言われていた。
出発は朝の六時。まだ薄暗く、空の端だけがうっすらとオレンジに染まっていた。ロキはクレートの中でくるりと一回転し、ふわりと落ち着いた。その丸まり方が、どこか「じゃあ寝るか」という潔さで、思わず笑ってしまった。
遠距離移動でいちばん大事なのは、乗せる前の準備だ。出発の二〜三時間前には食事を済ませておく。
これはわたしも何度か失敗して学んだこと。以前、満腹のまま車に乗せたとき、一時間も経たないうちに後部座席から妙な音が聞こえてきて、サービスエリアに緊急停車したことがある。あのときのロキの申し訳なさそうな顔は、今でも忘れられない。
ハスキー犬は寒冷地原産の犬種であり、厚い被毛を持っているため暑さに弱いという特徴がある。車内は密閉空間であり、特に夏場は短時間で高温になりやすいため、温度管理は最も重要なポイントだ。
十月とはいえ油断は禁物で、日中の車内温度は思った以上に上がる。
エアコンの設定は二十〜二十二度程度が適温だ。直射日光を避けるためのサンシェードの使用も効果的だ。
私は後部座席に遮光カーテンを取り付け、直射日光を遮る工夫もしている。また、冷却マットを敷いておくと、犬が自分で体温調整しやすくなる。
ロキはこのマットがお気に入りで、乗り込むなりまっさきにぺたりと腹を押しつける。冷たい感触が気持ちいいのだろう、目を細めて小さくため息をついた。その仕草が、なんとも人間くさくてたまらない。
安全面では、
クレートをそのまま置いているだけだと急ブレーキのときに危ない。シートベルトでクレートごと固定するか、専用のハーネスを使って犬の体を直接固定するか、どちらかは必須だ。
ハスキー犬は体重が二十キロを超えることも多く、固定が甘いと急停車の衝撃で大怪我につながりかねない。これだけは絶対に妥協しないでほしい。
遠距離移動では、定期的な休憩が欠かせない。ハスキー犬は運動量が多い犬種として知られており、長時間じっとしていることは彼らにとって大きなストレスとなる。一般的には二時間ごとに十五分から二十分程度の休憩を取ることが推奨される。サービスエリアやドッグランのある休憩施設を事前にリサーチしておくと、計画的に休憩を取ることができる。
高速を降りて山道に入ったあたり、ちょうど二時間が経っていた。小さなパーキングエリアで車を止め、ロキをリードにつないで外に出る。朝の山の空気は、杉と土の匂いが混じって、肺の奥まですっと入ってくるような清涼感があった。ロキは鼻をひくひくさせながら、あちこちの草むらに顔を突っ込んでいた。その横顔が嬉しそうで、こちらまで気持ちが解けていく。
水分補給も重要なポイントだ。車内には常に新鮮な水を用意し、休憩時にも水を与える機会を作りたい。ただし、走行中の給水は避け、停車時に適量を与えるようにする。
わたしはいつも折りたたみ式のシリコンボウルを持ち歩いている。軽くてかさばらないし、洗いやすい。細かいことだけど、こういう道具が旅の質を変える。
到着後のケアも忘れてはいけない。長時間同じ姿勢でいた分、筋肉が固まっている。すぐに激しい運動はさせずに、軽く散歩して体をほぐしてから、水を飲ませて休ませる。
ロキはノルドヴィラの庭に出るなり、しばらくゆっくりと歩き回っていた。興奮しているくせに、体が言うことを聞かないのか、少しぎこちない動きで草の上を踏みしめていた。
ハスキー犬との遠距離移動は、準備さえ整えればそれほど怖くない。温度管理、固定、休憩、水分補給。この四つを軸に考えれば、長い道のりも二人の時間になる。助手席の窓から差し込む秋の光が、ロキの白い毛をやわらかく照らしていた。そのとき感じた静けさは、どんな言葉でも説明しきれないと思う。
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