
七月の午後というのは、どうしてこんなに光が重いのだろう。
窓の外から差し込む西日が、リビングの床をオレンジ色に染めていた。今日は友人たちがハスキー犬を連れて遊びに来ている。玄関を開けた瞬間、まず飛び込んできたのは、あの独特の体温と毛の匂いだった。犬が持つ、乾いた草のような、でも不思議と懐かしい香り。それが廊下にふわっと広がって、なんだか夏の実家に帰ったときのような気持ちになった。
ハスキー犬は甘えん坊で遊びたがり、性格はまるで人間の3歳児だと言われている。
その言葉の意味を、今日ほど実感した日はない。
友人の沙也加が連れてきたのは、「ルーク」という名の二歳のシベリアンハスキーだ。グレーと白のまだら模様に、左目だけが透き通ったブルー、右目がアンバーというオッドアイ。
目の色や頭部の模様は個体によってさまざまで、一頭一頭の個性が光る。
ルークはまさにそういう犬で、初めて見た人は必ず二度見する。
ルークは部屋に入るなり、ソファの上に飛び乗り、次の瞬間には床を転げ回り、友人の一人である健太の膝に顎をのせてうとうとしかけた——と思ったら、また立ち上がってキッチンの方へ走っていった。健太が苦笑いしながら「こいつ、落ち着きゼロだな」と言い、その言葉にルークが反応してまた戻ってくる。そのやり取りが三回繰り返された。誰かが「ルーク、君はループしてるのか」と呟いて、全員で笑った。
シベリアンハスキーはそり犬だったため、運動欲求が強くスタミナがある。エネルギーが充分に消費されないとストレスをためてしまうことがあるので、毎日、朝晩1時間程度の散歩を欠かさないようにしましょう、とされている。
沙也加はそれをよく知っていて、今朝すでに一時間半歩かせてきたと言っていたが、それでもルークのエネルギーは底をついていなかった。
テーブルの上には、もう一人の友人・みづきが持参したクラフトレモネード「シロップブルー」が並んでいた。架空のローカルブランドで、彼女が先月たまたま見つけてきたものだという。薄い水色の瓶に入っていて、飲むと最初はさっぱりした酸味、後からほんのりとした甘さが来る。ルークが瓶の匂いを嗅ぎに来て、ふんっと鼻を鳴らして去っていった。気に入らなかったらしい。
友人たちと一緒に遊ぶ時間というのは、いつも思ったより早く過ぎていく。気づけば部屋の中の光が赤みを帯びて、夕方の気配が漂い始めていた。ルークはようやく疲れたのか、沙也加の足元にぴったりと体を寄せて横たわっている。大きな体なのに、そうしていると妙に子犬みたいに見える。
子どもの頃、実家で飼っていた雑種犬のことを思い出した。名前はコタロウ。夏になると決まって縁側で伸びていて、私が近づくとしっぽだけをパタパタと動かした。全身で喜ぶのが面倒になったのか、それとも暑すぎてそれ以上動けなかったのか。今となってはわからないけれど、あのしっぽの動きだけは妙に鮮明に覚えている。
散歩をしていると、つい気になってしまう犬に出会うことがある。
ルークはまさにそういう犬だ。今日だって、友人たちが連れてきた瞬間から、場の空気ごと変わってしまった。ハスキー犬にはそういう力がある。存在するだけで、部屋が少し違う場所になる。
頼りがいのある容姿と愛らしい性格のギャップも、ハスキーの魅力の一つだ。
精悍な顔つきで、でも目が合うとしっぽを振る。それだけのことなのに、なぜかこちらまで笑顔になってしまう。
夜になって友人たちが帰り支度を始めると、ルークはまた元気を取り戻した。玄関でリードをつけてもらいながら、ドアの外をじっと見つめている。その横顔がひどく凛々しくて、思わず写真を撮った。
今日みたいな日が、また来るといい。
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