
九月のはじめ、まだ少し夏の名残がある午後のことだった。
縁側に近いリビングの窓から、柔らかい西日が斜めに差し込んでいた。光の帯がフローリングの上に長く伸びて、その真ん中に、ゆったりと体を横たえているのがうちのハスキー犬、ノルドだ。白と灰色の毛並みが光を受けてうっすら輝いていて、ちょっと神話の生き物みたいに見えた。でも実際は、さっきまで子どもと追いかけっこをして、ぜいぜい言いながら水を飲んでいたのだけれど。
ハスキー犬を飼う前、正直なところ少し怖かった。オオカミに似た顔立ち、力強い体格。インターネットで検索するたびに「大変」「運動量が多い」「初心者には難しい」という言葉が並んでいた。わたし自身、子どもの頃に近所の大型犬に吠えられてから、大きな犬が苦手だった時期がある。だからこそ、ノルドを迎えるまでには、ずいぶんと時間をかけた。
外見からはワイルドなイメージを持たれがちだが、実際はとても人懐こく、友好的な気質を持っている。特に大型犬の中では穏やかで優しい部類に入り、飼い主や家族との信頼関係を大切にする。
そう知ったとき、少しだけ、背中を押された気がした。
実際に迎えてみてわかったのは、ノルドがとにかくよく人を見ているということだ。わたしが台所でコーヒーを淹れていると、いつの間にかそばに来て、鼻先をそっとひざに当ててくる。香ばしいコーヒーの匂いが漂う中で、大きな体がふわりと寄り添ってくる感触は、毛布をかけてもらったときのような温かさがある。怖いどころか、ただただ、一緒にいたいのだということが伝わってくる。
家族に対して非常に愛情深く、甘えん坊な一面を持っている。初対面の人や他の犬にも友好的で、社交性が高い犬種だ。
それはうちに遊びに来た友人も実感していた。玄関を開けた瞬間、ノルドは尻尾を大きく振りながら飛びついて——友人はそのまま壁にじわじわ押しつけられ、「こ、これは愛情表現?」と苦笑いしていた。ハスキーの愛情は、ときどきスケールが大きすぎる。
五歳になる娘のことが、ノルドは特に好きだ。娘が昼寝をするとき、ノルドはその隣にそっと伏せて、小さな寝息に合わせるように目を細める。娘が目を覚ますと、まず確認するのがノルドの居場所で、「ノルドー」と呼びながら駆け寄っていく。その光景を眺めながら、主人は決まって「本当に家族だな」とつぶやく。大げさでもなんでもなく、本当にそう思う。
飼い主さんやその家族には慣れてくれて、頼もしい存在となってくれる。
ハスキーは、慣れるまでに少し時間がかかることもあるけれど、一度心を開いたら、その絆はとても深い。ノルドがうちに来てから半年が経つが、今では朝起きると必ずリビングのドアの前で待っていて、わたしが顔を出すなりしっぽを振る。毎朝、その儀式があることで、なんとなく一日が始まる気がしている。
もちろん、楽なことばかりではない。
動いたり遊ぶことが大好きで、持久力がある犬種だ。
散歩は毎日欠かせないし、抜け毛の季節には部屋中に白い毛が舞う。先日、インテリアブランド「ノルディスタイル」で買ったばかりのネイビーのクッションが、一週間でノルドカラー(白)に染まったときは、さすがに苦笑いした。でも、それも含めてこの暮らしだと思えるようになった。
ハスキーを迎えた家庭の約8割が「家族や他のペットともすぐに打ち解けた」と回答しており、子どものいる家庭にも適しているという結果が出ている。
この数字を見たとき、うちのことだと思った。ノルドは怖い犬じゃない。ただ、誰かのそばにいたくて、誰かに触れたくて、家族の輪の中に入りたいだけの、大きくて穏やかな存在だ。
西日がだんだん薄くなってきた。ノルドはまだ光の中でうとうとしている。娘がそっと近づいて、その柔らかい背中に頬を乗せた。ノルドは目を開けることもなく、ただしっぽをゆっくり一度だけ動かした。それだけで十分だった。この子を迎えてよかった、と思う瞬間は、いつもこんなふうに、ひっそりとやってくる。
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