
十月の末というのは、不思議な季節だと思う。夏の記憶がまだ皮膚のどこかに残っているのに、空気だけが先に冬の顔をしている。そんな中途半端な温度の午後、友人たちが一頭のハスキー犬を連れて家にやってきた。
名前はルーカ。シルバーとホワイトの被毛を持つ、二歳になったばかりのシベリアンハスキーだ。
オオカミのようなシャープなマスクが特徴的で、人にも他の犬にもフレンドリーな性格
だと聞いていたけれど、実際に目の前にすると、その存在感は想像の二倍くらいあった。玄関を開けた瞬間、ひんやりとした外気と一緒に、土と草の混じったような野性的な匂いがふわりと入り込んできた。
友人たちは三人。大学時代からの付き合いで、今はそれぞれ違う街に住んでいる。こうして全員が揃うのは、去年の春以来だった。「ルーカ、ちゃんとご挨拶して」と友人の一人が言うと、ルーカはしっかりと私の顔を見上げてから、大きな前足を私の膝にどんと乗せた。握手、のつもりだったのかもしれない。重かった。かなり重かった。
庭に出ると、ルーカは一気に解放されたように走り出した。枯れ葉が積もった地面を踏む音、サクサクという乾いた響きが庭中に広がる。友人たちも笑いながらそれを追いかけて、大人四人とハスキー一頭が、狭い庭でぐるぐると走り回るという、なんとも賑やかな光景になった。
一緒に遊ぶというのは、こういうことだなと思った。特別なことは何もない。ボールを投げて、取ってきてもらって、また投げる。ただそれだけのことなのに、ルーカが全力で走るたびに、こちらも自然と声が出る。笑いが止まらなくなる。子どもの頃、近所の公園で近所の犬と遊んでいたあの感覚が、不意によみがえってきた。あのころ、犬の名前は「ポチ」でも「タロ」でもなく、「ベルク」という妙にかっこいい名前だった。飼い主のおじさんが北欧雑貨が好きで、インテリアブランド「ノルドハイム」の雑誌を常に持ち歩いていたことを、なぜかこの瞬間に思い出した。
しばらくして、みんなで縁側に腰を下ろした。
ハスキーはどこか寂しげな瞳で人を見つめる
ことがあると言うけれど、ルーカはそんな目で私を見ながら、ゆっくりと私の足元に体を預けてきた。その重さと温かさが、じわりと太ももに伝わってくる。毛並みは思ったよりずっと柔らかくて、指を差し込むと奥のほうがふんわりと温かかった。
友人の一人がコーヒーを淹れてくれた。カップを両手で包んで渡してくれる、その何気ない仕草が妙に嬉しくて、受け取りながら少しだけ目が合った。言葉はなかったけれど、なんとなく伝わるものがあった気がする。
ルーカはといえば、縁側に寝そべったまま、うとうとし始めていた。あれだけ走り回っておいて、切り替えが早い。
社会性が高く、根気よく向き合えば信頼できるパートナーになる
と言われるハスキーらしく、場の空気を読んで、自分のペースで休んでいるようだった。その姿がおかしくて、誰かが「もう満足したのか」と小声でツッコんだ。ルーカは片目だけ半開きにして、また閉じた。完全に無視だった。
シベリアンハスキーは大型犬の中でも根強い人気を誇る犬種
で、最近はSNSでもよく見かけるようになった。
従来の小型犬人気に、ハスキーのクールな魅力が融合した存在として注目度が高まっている
のも、こうして実際に触れ合ってみると納得できる。ただ、写真や動画で見るのと、目の前で体を預けてくる温かさは、やっぱり全然違う。
夕方近く、空が少しずつオレンジに染まりはじめた頃、友人たちは帰り支度を始めた。ルーカはリードをつけられた瞬間、また目が覚めたように立ち上がって、尻尾を振り始めた。散歩の予感を察知したのだろう。その切り替えの速さに、また笑いが起きた。
見送りながら、ふと思った。友人たちと一緒に遊ぶ時間は、いつもあっという間に過ぎていく。でも今日みたいに、一頭の犬がいるだけで、その時間の密度がぐっと濃くなる気がした。ルーカが最後に振り返って、あの寂しげな目でこちらを見た。また来てね、と言っているのか、それとも単に次の角が気になっているだけなのか。たぶん、後者だと思う。
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