
玄関のチャイムが鳴ったのは、午後二時をすぎたころだった。窓から差し込む十月の光がフローリングに細長く伸びていて、空気はひんやりとしていた。ドアを開けた瞬間、友人たちの顔より先に目に飛び込んできたのは、大きくて白と灰色の塊だった。
ハスキー犬だ。
シベリアンハスキーは、オオカミのようにシャープな顔立ちと力強さを感じるボディが特徴で、一見威圧的にも感じるが、その強面に反して性格はたいへん友好的だ。
まさにそのとおりで、その子は玄関に入るなり私の顔をぺろりと舐め、リビングへ向かって一直線に走り出した。友人の莉子がリードを握ったまま引きずられていくのを見て、思わず笑ってしまった。
友人たちは三人。莉子と、大学時代からの友人である健太と、最近引っ越してきたばかりの彩。そしてハスキー犬の「ソラ」。ソラは莉子が二年前から飼っている雄で、今日はみんなで一緒に遊ぼうという話になり、こうして集まった。
ソファの上にクッションが積まれていて、ソラはそれをひとつ口にくわえて振り回した。彩が「あっ」と声を上げ、健太が追いかける。私はキッチンでお茶を淹れながら、その騒ぎを横目で見ていた。
シベリアンハスキーは活発で友好的な性格があり、他の犬種や人間との社交が大好きだ。
ソラはまさにそれを体現していた。
お茶を運んでいると、莉子がソファに座ってソラの頭を撫でていた。ソラはうっとりした顔で目を細め、莉子の膝に頭を乗せてそのまま静止する。さっきまであれほど暴れていたのに、と思ったら少し笑えた。
シベリアンハスキーはとても賢く学習能力が高い犬種だが、好奇心旺盛な一面もあり、ほかのことに気が向きやすい。
ソラのその切り替えの早さは、もはや才能だと思う。
私が淹れたのは「ノルドブレンド」という北欧風のハーブティーで、シナモンと乾燥リンゴが入っている。湯気がほんのりと甘い香りをまとって立ち上り、十月の午後の空気にとけていった。彩がカップを受け取りながら「いい匂い」とつぶやいた。その仕草がどこかゆっくりしていて、この場の空気がすこし落ち着いた。
子どものころ、実家に犬がいた。雑種で、名前は「ムク」。毛がぼさぼさで、いつも庭を走り回っていた。ソラを見ていると、ムクのことを思い出す。あのころ、犬と一緒に遊ぶことがこんなに単純に楽しかったのだと、今になって気づく。
庭に出ると、ソラはすぐに芝の上を駆け回り始めた。
シベリアンハスキーはもともと犬ぞりの犬種として活躍していたため、膨大な運動量が必要で、とにかくスタミナがある。
健太がボールを投げると、ソラは迷いなく追いかけ、あっという間に取ってきた。「もう一回」と投げ、また取ってくる。それを五回繰り返したころ、先に息が上がったのは健太のほうだった。ソラはまだ目を輝かせていた。
午後の光が傾きはじめ、庭の隅に伸びる影が長くなってきた。空気が少し冷えてきて、ソラの白い毛が夕方の光の中でふわりと光って見えた。友人たちと一緒に遊ぶこういう時間は、何かを特別に計画しているわけでもないのに、気づくといつも記憶に残る。
莉子がソラのリードを持ちながら「そろそろ帰ろうかな」と言った。ソラは莉子の顔を見上げ、それからもう一度だけ芝の上をくるりと走った。まるで名残惜しいように。
帰り際、玄関でソラが私の手をもう一度ぺろりと舐めた。冷たくて、少し湿っていて、それがなんだかとても温かく感じた。ハスキー犬と一緒に遊ぶ秋の午後は、思っていたよりずっと、騒がしくて、やわらかかった。
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