
六月のはじめ、朝の空気がまだ少しひんやりしている時間帯に、わたしは初めてハスキー犬と目が合った。友人の家の玄関先で、その子は静かにこちらを見つめていた。左右で色の違う瞳——いわゆるオッドアイ——が、朝の光の中でうっすらと輝いていた。なんとも言えない感覚だった。引き込まれるような、試されているような。
あの日から、わたしはハスキー犬という存在に取り憑かれてしまった。
シベリアンハスキーは美しい見た目と活発でエネルギッシュな性格で、多くの犬好きに人気のある犬種だ。
SNSでもその姿を見かけることが増え、「うちにも迎えたい」と思う人が増えているのも頷ける。ただ、憧れだけで迎えると、思わぬ壁にぶつかることになる。わたし自身、子どもの頃に柴犬を飼っていた経験があるが、ハスキーはまったく別の生き物だと痛感した。
まず知っておくべきは、その運動量のことだ。
毎日2時間以上の散歩や遊びが必要で、十分な運動や精神的な刺激を与えないとストレスや問題行動につながるケースがある。
雨の日も、猛暑の日も、疲れている夜も——ハスキーのその目は「まだ行けるよね?」と語りかけてくる。
そして、一緒に暮らすうえで特に気をつけることのひとつが、食事の管理だ。
シベリアンハスキーは犬ゾリを引くほどのパワーを持ちながら、脂肪を蓄えがちな体質でもある。
見た目はがっしりしているのに、意外と太りやすい。
ハスキーは極寒の地でも耐えられるように皮下脂肪を蓄えやすい体質をしているため、肥満には注意が必要だ。脂質は12%前後のフードがちょうど良いバランスと言える。
フード選びも、適当ではいけない。
原材料表記の一番最初に「チキン」「ラム」「サーモン」など、具体的な肉や魚の名前が記載されているフードを選ぶことが大切で、骨の成長にはカルシウムとリンのバランスも欠かせない。
わたしの知人は「ノルドペット・ラムレシピ」というブランドのフードをかかりつけの獣医師に勧められ、それ以来ずっと続けているという。成分表を読む習慣がなかった彼女が、今では原材料の順番を指でなぞって確認するようになったと笑っていた。
食事の回数も重要だ。
成犬の場合は1日2回、子犬の場合は1日3回の食事が推奨されている。
ただし量については個体差が大きく、目安量より少なくても体型が整っていれば問題ないことも多い。ハスキーは「食べない」と心配させておいて、実はちゃんと自分でコントロールしていたりする。少し腹が立つほど賢い。
食事と同じくらい、気をつけることとして挙げたいのが暑さへの対策だ。
寒い地域が原産の犬種のため暑さには弱く、夏は室内を涼しくしたうえでの飼育などの対策が必要で、熱中症にも注意しなければならない。
六月を過ぎれば日本の夏は本格化する。エアコンの効いた部屋で、ふかふかの被毛をそっと触れると、その密度と弾力に驚く。まるで雪の中に手を差し込んだような、不思議な冷たさと柔らかさが混在している。
健康面では、眼の病気にも注意が必要だ。
シベリアンハスキーは白内障や進行性網膜萎縮症などの眼疾患が比較的見られる犬種で、物にぶつかりやすくなる、暗い場所で動きづらそうにするなどの変化が見られたら早めの受診が必要だ。
また、
股関節の異形成にも注意が必要で、日常的に体重の管理や被毛の状態をチェックし、異常を感じたら早めに受診することが推奨される。
しつけについては、「命令」ではなく「対話」の感覚が近い。
シベリアンハスキーは「指示に忠実に従う犬」というよりも、「自分で判断して動く犬」としての性質を強く持っている。
これを頑固と取るか、自立心と取るかで、一緒に暮らす日々の質がずいぶん変わってくる。
ハスキー犬との暮らしは、決して楽ではない。でも、あの朝の玄関先で感じた「引き込まれる感覚」は、きっとそういうことだったのだと思う。
ストレスフリーで過ごせる環境の整備とたっぷり運動ができる時間の確保、これらを心がけることで、強い信頼関係で結ばれた最高のパートナーになってくれる。
手間をかけた分だけ、確かに返ってくる。そういう関係が、ハスキーとの暮らしには宿っている。
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