
六月の午後というのは、不思議なほど光が白い。木漏れ日がウッドデッキに斑点を落として、風が草の匂いを運んでくる。そんな午後に、友人たちがハスキー犬を連れてやってきた。
玄関のチャイムが鳴った瞬間、すでに気配はあった。リードの金具がぶつかる音、そして低く長い、どこか遠吠えに近い声。
ハスキーは無駄吠えが少ない一方で、独特の遠吠えのような声を持つ
と聞いていたが、実際に耳にすると、それは予想よりずっと音楽的だった。まるで誰かが古い楽器を鳴らしているような、そういう響きだった。
友人の田中が扉を開けると、真っ先に飛び込んできたのは犬の名前だった。「コタ、落ち着けって」と言いながら、彼はリードを短く持ち直した。コタ、という名のシベリアンハスキーは、体全体で喜びを表現していた。尻尾が激しく揺れ、前足が地面を踏み鳴らし、青い瞳が庭中をぐるりと見渡す。
左右の目の色が違う「オッドアイ」はハスキーの大きな魅力ポイント
だと後から聞いたが、コタの目は両方とも澄んだ青で、その色の深さに思わず見とれてしまった。
もう一人の友人、佐々木がアイスコーヒーの入ったボトルを差し出してくれた。「暑いから早めに来たよ」と言いながら、彼女はすでに汗をかいていた。受け取る際に、冷えたボトルの表面の水滴が指先に伝わって、その冷たさだけが妙にはっきりと記憶に残っている。六月の午後二時、日差しはまだ容赦がなかった。
ハスキーは寒冷地方原産の犬種で、日本の暑い夏が苦手
だということを、このとき改めて実感した。コタは庭に出るなり、日陰を探してぐるぐると歩き回った。芝生の上に腹をつけて横たわり、舌を出して荒い呼吸をくり返す。その姿を見て、田中が「こいつ、夏だけちょっと覇気がなくなるんだよね」と苦笑した。
一緒に遊ぶとなると、コタは別の顔を見せた。テニスボールを転がした瞬間、さっきまでの無気力がどこへ行ったのか、地面を蹴って走り出す。芝の上を駆けるときの足音は、思ったより重くて力強い。ボールを咥えて戻ってくる表情が、どこか誇らしげで、それを見た友人たちの間に自然と笑いが起きた。
ハスキーを迎えた家庭の約8割が「家族や他のペットともすぐに打ち解けた」と回答している
という話を思い出したのは、コタが初対面の私の足元に鼻先を押しつけてきたときだった。警戒するでも吠えるでもなく、ただ静かに匂いを確かめて、それから満足したように頭を上げる。
見た目に反して性格は優しくて友好的で、飼い主に対して愛情深い
という言葉が、そのとき初めて体感として腑に落ちた。
子どもの頃、近所に大型犬がいて、怖くて近づけなかった記憶がある。あの犬は茶色い雑種で、チェーンにつながれていて、いつも低く唸っていた。コタはその記憶を、静かに上書きしていった。
日が傾きかけた頃、佐々木が「ちょっと休憩しよう」とデッキの椅子に腰を下ろした。架空のクラフトドリンクブランド「ノルドブリュー」のレモンジンジャーを缶から直接飲みながら、彼女はうとうとしはじめた。コタはその足元に寄り添って、同じように目を細めていた。二つの寝息が、庭の静けさに溶けていく。
ハスキーは人懐っこく甘えん坊な一面を持ち、家族に対して非常に愛情深い
という特徴が、こういう場面にも現れるのかもしれない。ただそこにいるだけで、場の空気を変えてしまう。それがこの犬の不思議な力だと思う。
田中がコタのブラシをかけ始めると、白とグレーの毛が風に乗って庭中に舞い上がった。「毎日これだよ」と彼は苦笑したが、顔は穏やかだった。そしてふと、コタが田中の手をぺろりと舐めた。ブラシを持ったまま固まった田中の顔が、なんとも言えない表情で——おそらく本人は「やめろ」と思いながらも、口元が緩んでいた。心の中でそっとツッコんだ。ブラッシング中断、原因は愛情、と。
友人たちが帰ったあと、庭には白い毛がいくつか残っていた。芝の上に引っかかって、風にゆらゆらと揺れている。それを見ながら、今日という午後のことを、しばらく忘れないだろうと思った。ハスキー犬と友人たちが連れてきたのは、賑やかさだけじゃなかった。なんというか、もう少し丁寧に時間を使いたいという気持ちを、置いていってくれたような気がした。
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