
朝の六時半、玄関を出た瞬間に空気が違うとわかった。梅雨が明けて間もない七月の朝、空は抜けるように青く、どこかの庭からキンモクセイに似た甘い香りが漂っていた——いや、季節的にそれはないか、と自分でも思いながらも、とにかくその朝の空気は特別に澄んでいた。
シベリアンハスキーは活発な性格で運動量が豊富な犬種であり、散歩は健康を維持するために重要な役割を果たしている。
それを頭でわかっていても、実際にリードを手に持ち、ルカ——我が家のオスのシベリアンハスキー、三歳——が玄関先でぐいぐいと体重をかけてくる瞬間は、毎朝軽い覚悟が必要だ。体重は二十五キロ近い。こちらが引っ張られる。
今日はいい天気だった。雲ひとつない、という言葉がこれほど正確に当てはまる朝もそうそうない。アスファルトがまだ熱を帯びる前の、柔らかな光の中を、ルカは耳をピンと立てて歩いた。
シベリアンハスキーはそり犬としてのルーツを持ち、現在も毎日2時間以上の運動が必要とされる。
だからこそ、この散歩は単なる「日課」ではなく、ルカにとっての本能を解放する時間なのだと思う。住宅街の細い路地を抜けると、近所の「ノルドパーク」という小さな公園に出る。正式名称はもっと違う名前のはずだが、近所ではずっとそう呼ばれている架空の愛称だ。朝はここが一番静かで、ルカも落ち着いて歩ける。
ふと、子どもの頃のことを思い出した。実家の近くに雑種の犬がいて、近所のおばさんが毎朝散歩させていた。引っ張られるたびにおばさんが「こら!」と叫んで、でも笑っていた。あの光景が好きだった。ルカと歩いていると、時々あのおばさんを思い出す。自分も今、きっとあんな顔をしているのだろう。
シベリアンハスキーは見た目に反して性格は優しくて友好的であり、飼い主に対して愛情深いため、素晴らしいパートナーになってくれる。
それはルカを見ていると、毎日実感することだ。オオカミのような顔をしているくせに、道端でしゃがんでいる小さな子どもに近づいてはそっと鼻先を差し出す。子どもが笑う。その瞬間が好きだ。
今朝も、公園のベンチに座っていたおじいさんが、ルカを見て目を細めた。「ハスキー犬か、久しぶりに見たな」とつぶやいた。
シベリアンハスキーはブルーの瞳を持つオオカミのような犬というイメージがあり、小型犬が人気の現代ではあまり見かけなくなった犬種だ。
だからこそ、こうして街中で目に留まるのかもしれない。ルカは、そのおじいさんの方をじっと見つめてから、ふいに大きなくしゃみをした。おじいさんが少し仰け反った。ルカ、空気読んで。
陽が少しずつ高くなってきた。地面に伸びる影が短くなる前に、折り返すことにした。帰り道、ルカの足取りは少し軽くなる。鼻をひくひくさせながら、草の匂い、土の匂い、誰かが捨てたコンビニ袋の匂いまで丁寧に確認していく。その横顔を見ながら、これが「いい散歩」というものだと思った。
適切な散歩により、犬と人間のコミュニケーションが深まり、絆が強まる。
そんな教科書的な言葉も、ルカと歩いているとただの事実として体に染み込んでくる。リードを通して伝わる力加減、立ち止まるタイミング、振り返る目——そういう細かなやりとりが積み重なって、今日の朝がある。
玄関に戻ると、ルカは水を一気に飲んで、涼しい廊下にどさりと横になった。満足そうな横顔だった。今日もいい天気だった。それだけで、十分だと思った。
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