
七月の午後というのは、なぜこんなにも眩しいのだろう。庭に引いた日除けのタープの下、アイスコーヒーのグラスに水滴がつたって、テーブルのうえにじんわりと輪を描いていた。今日は友人たちが、ハスキー犬のコタロウを連れてやってきた。
コタロウは、
ピンと立った三角の耳と、背中にくるっと巻いたしっぽが特徴的な
シベリアンハスキーで、左右の目の色がわずかに違う、いわゆるオッドアイの子だ。右が淡いブルー、左がアンバー。はじめて会ったとき、思わず「本物だ」と声に出してしまったのを、今でも覚えている。
友人の麻衣と健太が玄関先に現れたのは、ちょうど正午をまわったころ。コタロウはリードを持つ健太の手をぐいぐいと引きながら、まるで自分が先導しているかのように庭へと飛び込んできた。
活発で社交的、かつ知的で自立心が強い
という性質を、まさに体で表現しているようだった。
芝生に降り立ったコタロウは、まず鼻をぐるぐると地面に押し当て、においを確認し始めた。青草の香りと、土のにおい。夏の庭には独特の湿った熱気があって、それがコタロウの白と灰の被毛をふわりと揺らした。
寒冷地方原産の犬種で日本の暑い夏が苦手
なはずなのに、コタロウはそんなことを知らないかのように、庭の隅から隅まで嬉しそうに走り回っていた。
麻衣がタープの下のチェアに腰かけながら、「コタロウってほんと人見知りしないよね」とつぶやいた。
初めて会う人ともフレンドリーに接することから、比較的飼いやすい犬種
だと聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると、その人懐っこさには毎回驚かされる。コタロウはひとしきり走ったあと、なぜか私のほうへまっすぐ駆け寄ってきて、膝のうえに頭をどすんと乗せた。重い。でも温かい。その重さが、なんとも言えず心地よかった。
健太が冷えたアイスコーヒーを手渡してくれながら、「犬って不思議だよな、なんで初対面でこんなに懐くんだろう」と笑った。私もそう思う。コタロウとはまだ数回しか会っていないのに、彼はもうずっとここにいたかのような顔をしている。
三人でコタロウと一緒に遊ぶうちに、時間はどんどん過ぎていった。健太がボールを投げると、コタロウは猛ダッシュで追いかけ、でも拾ったボールをなかなか返さない。
好奇心旺盛な一面もあり、トレーニングをしているとき、ほかのことに気が向きやすい
のだと、麻衣が苦笑いしながら教えてくれた。コタロウはボールをくわえたまま、ちらりとこちらを見て、そのままぷいっと庭の反対側へ歩いていった。健太が「返せって」と追いかける姿は、どこからどう見ても、犬に遊ばれているほうだった(心の中で少しだけ笑ってしまった)。
子どもの頃、実家でゴールデンレトリーバーを飼っていた。毎朝、玄関を開けると尻尾を振って飛びついてくる、あの感触をずっと忘れられずにいた。コタロウを見ていると、その記憶がふいによみがえってくる。犬というのは、人の記憶に深く根を張る生き物だと思う。
日が傾きはじめた夕方、三人は近所の「ノルディア公園」まで散歩に出かけた。川沿いの遊歩道に木漏れ日が差し込んで、コタロウの被毛が金色に光った。風が吹くたびに草の青い香りが流れてきて、遠くで誰かが花火の準備をしているのか、火薬のかすかなにおいも混じっていた。七月四日の夕暮れは、どこか特別な空気をまとっている。
家族や他の動物と良好な関係を築きやすく、毎日の運動や遊びを楽しむ姿がよく見られる
と言われるシベリアンハスキー。コタロウはまさにそのとおりで、遊歩道ですれ違う人ごとに尻尾を振り、子どもに撫でられるたびに嬉しそうに目を細めていた。
帰り道、麻衣がぽつりと言った。「こういう日って、なんで終わりたくないんだろうね」。コタロウはその言葉を聞いていたのか、ゆっくりと麻衣の足元に寄り添って歩いた。
ハスキー犬と友人たちと一緒に遊ぶ、ただそれだけの午後。でも、こういう時間こそが、ずっとあとになって「あの夏」と呼ばれるものになるのかもしれない。
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