
朝の6時半。まだ空気が冷たく、アスファルトが夜の湿気をわずかに残している時間帯に、私はリュックを背負って玄関に立っていた。隣には、シベリアンハスキーのルカ。青みがかった瞳でこちらをじっと見上げ、しっぽだけが忙しなく揺れている。今日はここから片道6時間、長野の山あいにある「ヴィリーパーク」という犬連れ向けの自然公園を目指す、遠距離移動の日だ。
ハスキー犬と車で長距離を移動するとき、一番最初に考えなければならないのは「食事のタイミング」だと思っている。
出発の少なくとも2時間前にはごはんを済ませておくのが基本で、食事の量はいつも通りかやや少なめが目安とされている。ただし、空腹すぎる状態も自律神経を乱して車酔いの原因になるため、注意が必要だ。
ルカは食いしん坊なので、いつもより少し量を減らすと、皿をぺろりと舐め終えてから「もっとないの?」とでも言いたそうに私の足元をうろつく。それが毎回のことで、少しだけ笑ってしまう。
出発前にもうひとつ欠かせないのがトイレだ。
車の揺れによって普段より尿意が起こりやすくなるため、乗車前に必ず排泄を済ませておくことが大切で、我慢することが愛犬の身体への負担やストレスになる。
ルカを近所の公園に連れ出し、草の上を歩かせながら用を足させる。朝の光が木の葉を透かして、地面にまだら模様を作っていた。空気は松の香りがかすかに混じっていて、深く吸い込むと肺の奥まで冷たかった。
車に乗り込むとき、ルカは少し躊躇する。大型犬ゆえに後部座席とラゲッジスペースの境目をまたぐのが億劫らしく、毎回ためらってから飛び乗る。
床面が平らなカーゴスペースは揺れが少なく、車酔い対策にもなる。キャリーケースを置く場合は上部を開けて空調が行き届くようにしておくことが大切だ。
ルカのために用意したのは「アークハウンド」というブランドの厚手のトラベルマットで、クッション性が高く、長時間の移動でも体への負担が少ない。これを敷いてやると、ルカはすぐにくるりと一回転してその上に落ち着く。
走り始めて30分ほどすると、ルカはうとうとし始めた。後部ミラー越しに見えるその寝顔は、どこか安心しきった様子で、こちらの緊張も少しほぐれる。
犬は人間以上に揺れや振動に敏感なので、急発進や急ブレーキはできるだけ避け、山道ではカーブをゆっくり走ることが重要だ。
ハスキーはダブルコートで体温調整に独特の特性を持つ犬種だから、車内の温度管理も気が抜けない。
夏場の移動では冷房をつけ、25度前後に設定してあげると快適そうだ。人間には少し寒いくらいがちょうどいい。
高速道路に入ってから1時間半ほど走ったところで、最初の休憩を取った。
最近ではドッグランがついているサービスエリアが増えてきており、人間も愛犬も休むことができる。少し遊ばせてあげると、その後の車内でよく眠ってくれる。
ルカをリードにつないで外に出ると、彼は地面の匂いを嗅ぎながら小走りで駆け回り、一気に活気を取り戻した。毛が風に乗ってふわりと舞う。その白と灰のグラデーションが朝の光の中で輝いて、思わず見惚れてしまった。
そして、ここで正直に告白しておくと、私はこの休憩中にルカのリードをバッグに戻し忘れ、そのまま次のパーキングまで気づかなかった。幸い、ルカはずっとおとなしくクレートの中にいたのだが、「リードなしで万が一ドアを開けていたら」と思うとぞっとした。
狂犬病予防接種証明書やワクチン接種証明書なども、ドッグランや施設の利用時には必要不可欠で、忘れると現地では手に入らないため注意が必要だ。
準備は、念には念を入れるに越したことはない。
走行中に窓から犬の顔を出させたり、膝の上に乗せて運転したりすることは道路交通法違反になる場合もあり、絶対に避けるべき行為だ。
ハスキーはとくに好奇心が強く、窓の外の風景に反応して動こうとすることがある。クレートやシートベルトでしっかり固定することが、愛犬を守ることに直結する。
目的地の「ヴィリーパーク」に到着したのは昼を少し過ぎた頃だった。木々の間から差し込む光の柱の中に、ルカが走り込んでいく。その後ろ姿を見ながら、長い移動の疲れがすっと消えていくような気がした。準備が整っていれば、遠距離移動は不安ではなく、旅の始まりになる。ハスキー犬と車で遠くへ行くことは、手間がかかるぶんだけ、着いたときの喜びが深い。それがわかったのは、今日のような朝があったからだと思っている。
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