
空が妙に高く見える朝というのが、年に何度かある。梅雨入り前のほんの短い晴れ間、6月上旬の午前7時ごろ。湿気はまだ薄く、風がわずかに草の匂いを運んでくる。そういう朝に限って、ルカはやけに早く目を覚ます。
ルカはシベリアンハスキーの雄で、3歳になったばかりだ。グレーとホワイトの被毛に、左だけ薄いブルーの瞳。右目はアンバーに近い琥珀色で、見るたびに「この子、どこか違う星から来たのでは」と思ってしまう。
街を歩けば「かっこいい」「狼だ」と振り向かれることが多い犬種
だと聞いていたけれど、本当にそのとおりで、散歩のたびにすれ違う人が足を止める。
今日もいい天気だった。
玄関を出た瞬間、ルカが鼻をぴくりと動かした。アスファルトがまだ夜の冷気を少し残していて、足の裏に伝わる感触がひんやりしている。私は「行くよ」と声をかけるより先に、リードがぐんと前に引っ張られた。
急に引っ張られて転倒してしまうこともある
と最初に読んだとき、「まさか」と思っていたのに、今では毎朝それが当たり前になっている。慣れとは恐ろしいものだ。
近所の「緑ヶ丘公園」沿いの道を歩くのが、ルカとの定番コースである。公園の端に植えられたクスノキが、朝の光を受けて葉の裏側まで透けて見える。その木の下を通るとき、ルカは必ず立ち止まって上を見上げる。何かが気になるのか、ただの習慣なのか、もう1年以上同じことをしている。
シベリアンハスキーは一日中散歩させてもまだ足りないと感じることがあるほどの持久力を持っている。
それを知ったのは飼い始めてすぐのことで、正直なところ、最初の数ヶ月は私のほうが先に音を上げていた。子どもの頃、実家で飼っていた柴犬はのんびり屋で、散歩中によく道端に座り込んでいたから、ハスキーのこの推進力には完全に面食らった。
道の途中、顔見知りの柴犬・むぎちゃんとすれ違った。むぎちゃんはルカを見るなり尻尾を大きく振って近づいてきた。ルカも低い声で「ウォウ」とひと鳴きして応じる。これがルカなりの挨拶らしい。飼い主さんと少し立ち話をしながら、私はルカのリードを短く持ち直す。
散歩中にほかの犬を見かけると、あまりにも元気に挨拶するので大抵相手の犬に引かれている
なんて話を聞いたことがあるが、ルカも似たようなものだ。
公園の奥の芝生エリアに差しかかると、ルカの歩幅が一段と大きくなる。芝の感触が好きなのだろう、足音が柔らかくなって、表情がどこかほぐれる気がする。朝の光が斜めに差し込んで、ルカの白い被毛が一瞬、金色に見えた。
ここで少し寄り道をした。公園の入り口近くにある小さなキオスク「ブルーノルド」で、缶コーヒーを一本買う。ルカはその間、入り口の柱に鼻をくっつけて、誰かの残り香を熱心に調べていた。缶を開けた瞬間のプシュという音に、ルカがぱっと振り返る。「違う、これは君のじゃない」と心の中でツッコんだ。
適切な散歩により、犬と人間のコミュニケーションが深まり、絆が強まる
というのは本当だと思う。毎朝こうして歩いていると、ルカの機嫌や体調の微妙な変化が、リードの張り具合ひとつで伝わってくるようになった。今日は少し引きが強い。元気がある証拠だ。
帰り道、ルカが突然立ち止まって、遠くの方角に鼻を向けた。何かの匂いを嗅ぎとったのだろう、耳をぴんと立てたまま、しばらく動かない。その横顔が、ふと子どもの頃に図鑑で見たオオカミに似ていると思った。
シベリアンハスキーはエネルギッシュで自由奔放な性格を持つ犬種だ。
それはまったくそのとおりで、ルカと歩いていると、自分まで少し自由になれる気がする。いい天気の朝というのは、そういう気持ちをさらに後押しする。
家の前まで戻ってきたとき、ルカがちらりとこちらを見上げた。「まだ行けるよ」と言いたそうな顔だった。私は苦笑いしながら、玄関のドアを開ける。ハスキー犬との散歩は、いつだって、もう少しだけ続けたくなる。
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